なぜレッサーパンダは絶滅危惧種なのか?ジャイアントパンダより深刻な現実と私たちにできること
動物園でおなじみのかわいいレッサーパンダ。立ち上がる姿で多くの人を魅了する愛らしい動物ですが、実はジャイアントパンダよりも絶滅の危険度が高いことをご存知でしょうか。
現在、野生のレッサーパンダは地球上にわずか2,500~10,000頭しか生息していません。この20年間で個体数は半分以下に減少し、数十年のうちに野生から姿を消す可能性があると警告されています。

驚きの事実 ジャイアントパンダ:IUCNレッドリスト「危急種(VU)」 レッサーパンダ:IUCNレッドリスト「絶滅危惧種(EN)」 レッサーパンダの方が1ランク上の危険度です
この記事では、なぜレッサーパンダが絶滅の危機に瀕しているのか、その深刻な現実と私たちができる保護活動について、最新のデータとともに詳しく解説します。
レッサーパンダは何を食べる?特殊な食性が絶滅危機を加速
レッサーパンダの絶滅危機を理解するためには、まず彼らの特殊な食性について知ることが重要です。
主食は竹だが実は肉食目

レッサーパンダは食肉目でありながら、食事の約90%を竹や笹が占める草食性の動物です。これは非常に珍しい特徴で、肉食動物の消化システムを持ちながら植物を主食とするという矛盾した体の構造を持っています。
野生での食べ物
- 竹の葉・筍:全食事の約90%
- 果実:リンゴ、ベリー類など季節の果物
- 小動物:鳥の卵、昆虫、小さなネズミ(まれに)
- その他植物:若い芽、樹皮、根など
動物園での食事
日本の動物園では、野生の食性を再現するため以下のような食事を提供しています:
- 新鮮な竹の葉:動物園の裏山から毎日採取
- リンゴ:レッサーパンダの大好物
- 煮人参:栄養補給のため
- 竹ヨーグルト:特別に調製された栄養食品

飼育員からの声 「レッサーパンダはとてもグルメで、竹の葉が少しでも古いと『プイッ』と横を向いて食べてくれません。毎日新鮮な竹を用意するのが大変ですが、それだけ繊細な動物なんです」
食性が絶滅危機を加速させる理由
1. 限定的な食料源への依存
竹や笹に90%を依存しているため、これらの植物が減少すると直接的に生存に影響します。森林伐採により竹林が失われると、代替食料を見つけることが困難になります。
2. 消化効率の悪さ
肉食動物の短い腸で植物を消化するため、1日に体重の20-30%もの大量の竹を食べる必要があります。これは体重5kgのレッサーパンダが毎日1-1.5kgの竹を食べることを意味します。
3. 栄養価の低さによる活動制限
竹は栄養価が低いため、レッサーパンダは1日の大部分を休息に費やします。活動時間が限られることで、危険からの逃避や繁殖活動にも影響を与えます。
4. 季節変動への脆弱性
竹には開花周期があり、一斉に枯れる現象が数十年に一度発生します。野生では別の竹林に移動できますが、生息地が分断されている現在では移動が困難になっています。
人間活動との競合
生息地周辺の住民も竹を以下の用途で利用するため、レッサーパンダとの競合が発生しています:
- 建築材料:家屋や柵の建設
- 生活用品:かごや日用品の制作
- 燃料:調理や暖房用
- 家畜の餌:牛や羊の飼料として

深刻な現実 家畜が放牧されている地域では、牛や羊がレッサーパンダの餌となる竹を食べ尽くしてしまい、レッサーパンダが餓死する事例も報告されています。
レッサーパンダが絶滅危惧種になった3つの主要原因

原因1:生息地の森林破壊と断片化
最も深刻な問題は、レッサーパンダの生息地である森林の急激な減少です。
レッサーパンダは、ブータン・中国・ミャンマー・インド・ネパールの標高1,500~4,000mの高地森林に生息しています。しかし、人口増加に伴う開発により、これらの森林が急速に失われています。
森林破壊がもたらす具体的な影響
- 餌の不足:主食である竹や笹の生育地が減少
- 移動の制限:森林の分断により、繁殖相手を見つけることが困難に
- 遺伝的多様性の減少:近親交配により、病気に弱い個体が増加
- 避難場所の消失:捕食者から身を隠す場所がなくなる

専門家の声 「森林の断片化は、レッサーパンダにとって最も致命的な問題です。広い森林がいくつかの小さな森に分かれると、個体群が孤立し、遺伝的な問題が生じやすくなります」
原因2:人間活動の増加による直接的脅威

生息地周辺での人間活動の増加も、レッサーパンダの生存を脅かしています。
具体的な脅威
家畜による競合
- 放牧された牛や羊が、レッサーパンダの餌となる竹を食べてしまう
- 限られた食料資源をめぐる競争が激化
飼い犬からの脅威
- 酪農家が連れている犬による攻撃や殺傷事故
- 犬の糞などを通じた感染症の伝播リスク
燃料・建材としての森林利用
- 地域住民による薪や建築材料としての伐採
- 調理用燃料の確保のための竹林の破壊
原因3:密猟と違法取引の深刻化

近年、レッサーパンダの密猟が急激に増加しています。特に2020年以降、パンデミックの影響で貧困が拡大し、密猟に手を染める人が増えています。
密猟の実態
ペット目的の密猟
- SNSでの「かわいい」画像拡散がペット需要を刺激
- 2018年にラオスで6頭のレッサーパンダが密輸組織から保護(うち3頭は衰弱死)
毛皮・装飾品目的
- 帽子や装飾品のための毛皮需要
- 尻尾は特に高値で取引される
違法取引の現状
- ネパールでは野生生物の違法取引の90%が報告されず
- 誰が取引を行い、どこに輸出されているかの情報がほとんどない

緊急事態 Red Panda Networkの2020年活動報告書によると、「ネパールでは今年、レッサーパンダの密猟がかつてないほど増加している」と警告されています。
ジャイアントパンダとの比較:なぜレッサーパンダの方が危険なのか

多くの人が「パンダ=ジャイアントパンダ」と考えがちですが、実はレッサーパンダの方が先に「パンダ」と名付けられた元祖パンダです。
保護状況の違い
項目 | ジャイアントパンダ | レッサーパンダ |
---|---|---|
IUCNレッドリスト | 危急種(VU) | 絶滅危惧種(EN) |
野生個体数 | 約1,864頭 | 2,500~10,000頭 |
個体数の変化 | 増加傾向 | 20年で半減 |
保護予算 | 中国政府が巨額投資 | 限定的 |
なぜレッサーパンダの方が危険なのか
- 注目度の差:ジャイアントパンダは世界的な保護のシンボルとして巨額の資金が投入される一方、レッサーパンダへの関心は限定的
- 生息環境の違い:ジャイアントパンダは比較的保護された保護区に生息するが、レッサーパンダの生息地は人間活動の影響を受けやすい
- 繁殖率の低さ:レッサーパンダの出生数は平均1~2頭と少なく、繁殖も困難
日本が果たす重要な役割:世界最大のレッサーパンダ保護拠点

実は日本は、世界最大のレッサーパンダ保護国なのです。
驚きの事実
- 世界で飼育されているシセンレッサーパンダの約7割が日本にいる
- 2022年12月31日時点で日本国内267頭を飼育
- 世界の飼育個体350頭のうち、日本が249頭を占める
静岡市立日本平動物園:レッサーパンダの聖地

静岡市立日本平動物園は、日本国内のレッサーパンダの種別計画管理を担っています。
主な役割
- 全国の動物園で飼育されている個体の血縁関係を把握
- 適切な繁殖計画の立案・実施
- 日本初の人工哺育成功
- 遺伝的多様性の維持

飼育員からのメッセージ 「日本の動物園で生まれるレッサーパンダ一頭一頭が、種の保存にとって非常に重要な存在です。私たちは未来へのかけ橋として、責任を持って飼育・繁殖に取り組んでいます」
現在の保護活動:世界規模での取り組み

国際的な保護活動
Red Panda Network(アメリカ)
- 生息地での実態調査
- 断片化した森林の修復・植林活動
- 地域住民への代替収入源の提供
- 森林保護官のネットワーク構築
WWF(世界自然保護基金)
- 地域住民への環境教育プログラム
- 燃焼効率の高い調理用ストーブの導入支援
- エコツーリズムの推進
企業による支援活動
ザ・ボディショップ「バイオブリッジキャンペーン」
- 2018年にレッサーパンダを保護対象に選定
- 売上の一部を森林再生に寄付(総額約1億2千万円)
- 消費者への絶滅危惧種問題の啓発
法的保護
- ワシントン条約:付属書Iに掲載、商業取引を国際的に禁止
- 各国の法整備:生息国での捕獲・取引の厳罰化
- 種の保存法:日本国内でも厳格な保護対象
毎年9月第3土曜日:国際レッサーパンダデー
**2000年にRed Panda Networkが制定した「国際レッサーパンダデー」**では、世界中の動物園でレッサーパンダの現状を伝える特別イベントが開催されています。
日本での取り組み
- 全国の動物園で飼育員による特別解説
- レッサーパンダの生態や保護の重要性に関する教育活動
- 来園者への保護活動への参加呼びかけ
私たちにできる5つのアクション

レッサーパンダの保護は、私たち一人ひとりの行動から始まります。
1. 正しい知識を学び、共有する
- レッサーパンダが絶滅危惧種であることを多くの人に伝える
- SNSでの正確な情報発信
- 家族や友人との会話で話題にする
2. 動物園での保護活動を支援する
- 動物園を訪問し、レッサーパンダの現状を学ぶ
- 動物園の保護活動への寄付
- ボランティア活動への参加
3. 保護団体への支援
主な支援先
- Red Panda Network
- WWFジャパン
- 各地の動物園の保護基金
4. 持続可能な選択をする
- 環境に配慮した製品の選択
- 森林破壊につながる商品の回避
- 地域の環境保護活動への参加
5. 国際レッサーパンダデーに参加する
- 毎年9月第3土曜日のイベントに参加
- 動物園の特別プログラムに参加
- オンラインでの啓発活動に参加

読者の皆さんへ 「レッサーパンダはどこの動物園にもいるから大丈夫」は大きな誤解です。野生のレッサーパンダは今まさに絶滅の危機に瀕しています。私たち一人ひとりの関心と行動が、彼らの未来を左右するのです。

まとめ:今こそ行動を
レッサーパンダは、私たちが思っている以上に深刻な絶滅の危機に直面しています。ジャイアントパンダよりも危険な状況にあるという事実は、多くの人にとって驚きかもしれません。
主な危機の要因
- 森林破壊による生息地の急激な減少
- 密猟と違法取引の深刻化
- 人間活動による直接的な脅威
- 竹への食性依存による脆弱性
しかし希望もあります。日本は世界最大のレッサーパンダ保護拠点として重要な役割を果たしており、世界各地で保護活動が活発に行われています。
私たちにできることは決して少なくありません。正しい知識を持ち、身近なところから行動を始めることで、レッサーパンダの未来を変えることができるのです。
次回動物園を訪れる際は、ぜひレッサーパンダ舎を訪れ、彼らの現状について学んでみてください。そして、この記事で得た知識を周りの人たちと共有してください。一人ひとりの小さな行動が集まれば、必ずレッサーパンダの未来を明るくすることができるはずです。
参考文献・出典
- IUCN Red List – Ailurus fulgens
- 静岡市立日本平動物園 – レッサーパンダの現状
- Red Panda Network – Annual Report 2020
- 東京動物園協会 – 国際レッサーパンダの日について
- WWFジャパン – レッドリストとは
- Tierzine – レッサーパンダは絶滅危惧種
- トラフィック – レッサーパンダは絶滅の危機にある動物である
最終更新日:2025年7月25日 記事の内容は各種公的機関の最新データに基づいています

