ムツゴロウ動物王国と畑正憲の歩み:死因・家族・現在まで完全解説
「よーしよしよし」の決めセリフで愛されたムツゴロウこと畑正憲さん。
2023年4月5日に87歳で逝去された彼の人生は、動物との深い絆、そして3億円の借金を背負った壮絶な挫折と復活の物語でもありました。
この記事では、動物研究家として、作家として、そして一人の人間として歩んだ畑正憲さんの全てを詳しく解説します。
なぜ東大出身の天才が動物王国を築いたのか、運営会社グローカル21の破綻により巨額の借金を背負うことになった真相、死因となった心筋梗塞の経緯、そして最期まで動物と共に歩んだ人生について、正確な情報をお伝えします。
天才少年から東大卒エリートへ:畑正憲の原点
満州での原体験が人生を決めた
畑正憲さんは1935年4月17日、福岡県福岡市で生まれ、小学生時代は北満の大自然の中で育ち、その後、医者の父、助産婦の母と共に大分開拓団で過ごしました。
この幼少期の体験が、後の動物愛に満ちた人生の出発点となったのです。
驚異的な記憶力と学習能力
小学生の時には読書だけで漢字を覚え、中学生の時にはお兄さんに借りて読んだ本で物理をマスターし、高校生の時には辞書なしで英語の本を読むなど、天才的な頭脳の持ち主でした。
東京大学理科II類に現役合格した際のエピソードも驚異的です。「東大の試験も、よもや落ちるなんて考えてもいなかったしね。
僕は予備校とか塾なんて通ったこともないし、教科書なんて1時間くらいかけて読んだら、もう内容を覚えているんですよ。勉強するまでもない」と本人が語るほどの記憶力でした。
学研時代から作家デビューへ
1961年(昭和36年)、学習研究社(現・学研ホールディングス)の映像部門に就職し、理科関係を中心に学習映画などの作成に携わりました。しかし、社の成長による巨大企業化とそれによる社風の変質を嫌い、社長に直訴状を送って退職します。
1968年に『われら動物みな兄弟』で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞し、作家としての道を歩み始めました。この時点で、すでに畑さんの人生の方向性は決まっていたのです。

ムツゴロウ動物王国の誕生と黄金時代
北海道移住という大決断
1971年、東京を離れ、北海道厚岸郡浜中町の嶮暮帰島に移住。さらに対岸の本土地区に移り、1972年に「ムツゴロウ動物王国」を開園しました。約450万平方メートルという広大な敷地に、様々な動物たちとの共同生活が始まったのです。

テレビ番組の大ブーム
1980年12月からテレビ番組「ムツゴロウとゆかいな仲間たち」としてシリーズ放映されて、80年代には大きなブームとなって子供達の人気番組となり、ムツゴロウの名前は全国規模で周知されるようになりました。
この番組は21年間続く長寿番組となり、最高視聴率30.2%を記録する大人気番組でした。ライオンに指をかまれる場面など、命がけの動物とのふれあいが視聴者の心を掴んだのです。
プロ雀士としての異色の顔
畑正憲さんには、動物研究家とは別の顔がありました。日本プロ麻雀連盟最高顧問であり初代十段位(畑が強すぎたため畑を位付けするために創設された)、最高位戦創案者でもあったのです。
39歳で発症した胃がんの療養生活中に、趣味として麻雀を始めたのがきっかけでしたが、その才能は凄まじく、「昭和麻雀十傑」の1人にも選ばれています。天才的な記憶力は麻雀の世界でも遺憾なく発揮されたのです。
東京進出の夢と現実:破綻への道のり
東京ムツゴロウ動物王国の開園
2004年7月28日、東京サマーランド内の敷地に「東京ムツゴロウ動物王国」を開園。
一部のスタッフと動物だけを北海道に残し、事実上「ムツゴロウ動物王国」は東京都に移転することとなりました。
「都会の人々に動物にふれあってもらう」というコンセプトで、2004年7月28日、東京都あきる野市の東京サマーランド内の約9万m2の敷地に観光施設としての「東京ムツゴロウ動物王国」を開園しました。
信頼していた仲間たちとの東京進出
ここで重要なのは、畑正憲さん自身は経営に関わっていなかったという事実です。
関東進出のための運営会社として、株式会社グローカル21が設立されましたが、これは長年ムツゴロウ動物王国で共に働いてきた信頼できるスタッフたちが中心となった事業でした。
畑さんは「信頼できる知人が取締役になる」という条件で、名前を貸し、経営は彼らに任せるということで話がまとまっていたのです。
集客不振と経営悪化
当初、年間来園者を30万人と見込んでいたが、蓋を開ければ半数にも満たない約12万人という大誤算でした。
集客が伸びず、サマーランドへの賃料や従業員の給与の支払いが滞納するなどし、経営は急速に悪化していきました。
破綻の衝撃:8億円の負債と3億円の個人借金
グローカル21の破綻
2006年10月14日、「ムツゴロウ動物王国」の運営会社だったグローカル21が破綻し、負債総額8億円に上ることが明らかとなったのです。
畑正憲さんが背負った理不尽な責任
最も理不尽だったのは、経営に関与していなかった畑正憲さんが個人保証を求められていたことでした。東京ムツゴロウ動物王国の運営資金を個人保証で借り入れていた関係から、個人としても約3億円の借金を背負ったのです。
長年信頼してきた仲間たちが設立した会社でしたが、動物の世話と経営は全く別のスキルでした。
当初、年間来園者を30万人と見込んでいたが、実際には約12万人という大誤算。
善意の人たちによる運営でしたが、ビジネス的な判断ができずに破綻してしまったのです。
それでも畑正憲さんは「男としての生きざま」として、たとえ自分が関与していない失敗であっても、最終的な責任を取る道を選んだのでした。
2007年11月、東京ムツゴロウ動物王国閉園
2007年10月17日、東京都あきる野市の「東京ムツゴロウ動物王国」が2007年11月25日で閉園、活動発祥の地である北海道へ戻ることが発表されたのです。
70歳を超えての借金返済:不屈の精神力
8年間の壮絶な借金返済生活
執筆・講演活動などの収入で約8年間かけて借金を完済したのです。70歳を超えてから3億円の借金を背負い、それを8年で完済するというのは、並大抵のことではありません。
「その閉鎖で、僕には莫大な借金が残った。それからというもの、借金を返すために日本中を駆け回る日々です。
動物の飼育係を育成する専門学校の講師やイベント、トークショーの営業でお金をかき集めた。
当時、僕は70歳を超えていましたが、借金を返すために身を粉にして働きました」
男としての責任感
「僕は男だからね。うちにいた人間が作った借金は全部責任を持ちます。それが男としての生きざまだからね」という言葉からは、畑正憲さんの人間性の高さが伺えます。
たとえ自分が直接関与していない失敗であっても、最終的な責任者として借金を背負う覚悟を決めた畑正憲さん。
その責任感の強さは、現代を生きる私たちにとって大きな教訓となります。
晩年の健康問題と心筋梗塞による死去
2017年の心筋梗塞発症
2017年10月に心筋梗塞を発症し入院、手術を経て入退院を繰り返した後、自宅療養を続けてきました。それでも、YouTubeなどで北海道での生活を発信してきたなど、最期まで動物愛を伝え続けました。
最期の一週間と死因
2023年4月5日午後5時53分、畑正憲さんは心筋梗塞のため北海道中標津町の病院で87歳で亡くなりました。死の一週間前から容態が急変し、自宅で倒れた後、搬送先の病院で息を引き取ったのです。
関係者によると、亡くなる2週間前まで連載していた週刊誌の原稿やイラストを書いていたといい、最期まで創作活動への情熱を失わない姿勢を貫いていました。
家族と動物に囲まれた最期
晩年は、40年前に移り住んだ北海道の中標津にある大自然に囲まれたログハウスで、妻と馬の世話をするスタッフと三人+大型犬1匹「ルナ」と猫一匹「マヤ」と暮らしていました。
孫の風花さんによると「家族に見守られての旅立ちでした。本当に今にも『どっきりでしたー!』と起き上がりそうなぐらい安らかな表情です。
犬や猫たちが『遊んでよー』と寄り添っております」とのことで、最期まで愛する家族と動物たちに囲まれた穏やかな逝去でした。
ムツゴロウ動物王国の現在と今後
現在の状況
ムツゴロウ動物王国は閉鎖されており、畑正憲さんの逝去後も運営は続いていません。しかし、ムツ牧場は2025年現在も営業を続けています。
ムツ牧場(有限会社ムツ牧場)は北海道標津郡中標津町で現在も乗馬体験を提供しており、ムツゴロウさんが愛した道産子馬の血を受け継いだ馬たちが広い空の下でのびのびと暮らしています。
代表者は津山剛氏が務めており、2025年2月からは新料金体系で運営されています。
家族と継承者:ムツゴロウ精神を受け継ぐ人々

妻・純子さんとの70年の絆
畑正憲さんは中学2年生の14歳の時から交際を始めた同級生の吉岡純子さんと23歳で結婚し、70年以上を共に過ごしました。
純子さんは結核を患い、当時は治らない病とされていましたが、畑さんの励ましもあって完治。
その後上京して結ばれたという、深い愛情に基づく結婚でした。
純子さんは2024年11月30日、89歳で亡くなりました。娘の明日美さんによると、「昨年、4月にムツさんが側にいなくなった後、少しずつ、気力、体力が弱っていき」、「生涯ムツさんに恋をしていた母ですので今、また隣にいることができてきっとお空で幸せにしていることと思います」とのことです。
「地の果てでもどこでもついて行く」と語っていた純子さんは、畑さんの突然の無人島移住宣言や動物王国での生活など、起伏に富んだ人生を最期まで支え続けた人でした。
娘・明日美さんと津山剛さん夫妻が継承
現在ムツ牧場を運営しているのは、畑正憲さんの一人娘である明日美さん(62歳)と、その夫である津山剛さん(61歳)です。
津山剛さんは沖縄県出身で、小学生のころから畑さんの本を読んで憧れを抱き、約40年前にムツゴロウ動物王国を訪ねた元スタッフでした。
明日美さんは1977年に16歳で「チビ・マール氏の動物記」を出版するなど、父の文才を受け継いでいます。
津山剛さんについて畑正憲さんは「世界中探しても他にいない、唯一無二の存在だった」と評価されており、現在もムツ牧場の代表としてムツゴロウさんの動物愛の精神を体現しています。
4人の孫たち
明日美さんと津山剛さん夫妻には4人の子供(畑正憲さんにとっては孫)がいます:
- 風花さん:長女。畑正憲さんの逝去時にブログで心境を綴った
- 舞花さん:次女。モデル・ダンサー・女優として活躍中
- 森さん:長男。ムツ牧場で動物の世話を手伝っている
- 飛来さん:末っ子。1995年生まれで東京で社会人として活躍
ムツゴロウ精神の継承
津山剛さんが現在のムツ牧場の代表者として、畑正憲さんの理念を継承しています。
「乗る時間だけが乗馬ではなく、鞍付け、片付け、馬とのコミュニケーションまで、すべてを経験し、本当の乗馬の楽しさを知っていただきたい」という方針は、まさにムツゴロウさんの「動物との真の交流」という理念そのものです。
畑正憲さんが現代に遺したもの
動物愛護精神の普及
畑正憲さんの最大の功績は、動物との真の共生とは何かを身をもって示したことです。「よーしよしよし」というセリフは単なる決めポーズではなく、動物への深い愛情の表れでした。
多才な人間性
東大卒のエリートでありながら、動物研究家、作家、プロ雀士、画家など多彩な顔を持っていたことも、現代の私たちに大きな示唆を与えています。一つの分野に縛られない自由な生き方の重要性を教えてくれました。
責任を全うする男の生き様
70歳を超えてから3億円の借金を背負い、それを完済したという事実は、現代の私たちに責任の重さと、最後まで諦めない精神の大切さを教えてくれます。
まとめ:ムツゴロウさんが教えてくれた「生きること」の意味
畑正憲さんの人生を振り返ると、栄光と挫折、そして復活の物語が見えてきます。東大卒という華々しいスタートから、北海道での動物王国建設、テレビでの大ブーム、東京進出での大失敗と巨額の借金、そして晩年の静かな生活まで。
彼が一貫して貫いたのは、動物への愛と責任感でした。運営会社の破綻により理不尽な借金を背負わされても、「男としての生きざま」として責任を全うした姿は、現代を生きる私たちにとって大きな教訓となります。
「今は自分が生きていくだけでやっとです」という晩年の言葉からは、人生の重みと、それでも最後まで生き抜く強さを感じることができます。
ムツゴロウさんは、動物との共生、責任ある生き方、そして最後まで諦めない精神を私たちに遺してくれました。その精神は、これからも多くの人の心の中で生き続けていくことでしょう。
ムツ牧場訪問ガイド:ムツゴロウ精神を体験しよう
基本情報
ムツ牧場(有限会社ムツ牧場)
- 住所:〒086-1134 北海道標津郡中標津町 協和27線35番地
- 電話番号:0153-79-2233
- FAX番号:0153-72-2355
- 公式ホームページ:https://mutsugoro-okoku.com/riding/
- 代表者:津山 剛
- 動物取扱業登録番号:北海道第140830036号
アクセス方法
- 中標津空港から:車で約20分
- 中標津バスターミナルから:車で約15分
- JR根室本線釧路駅から:阿寒バス中標津行きで2時間、中標津町交通センター下車、タクシーで10分
体験できること
ムツ牧場では、ムツゴロウさんが愛した「道産子」の血を受け継いだ馬たちとの本格的な触れ合いが楽しめます:
乗馬体験の特徴
- 初心者から上級者まで対応:レベルに合わせたプログラム
- 引き馬なし:本格的な乗馬体験(推奨年齢10歳以上)
- 馬との交流重視:ブラッシング、鞍付け、餌やりまで体験
- 外乗コース:森林、草原、川沿いなど変化に富んだコース
- 知床連山の眺望:雄大な北海道の自然を馬上から満喫
料金体系(2025年2月より新料金)
- ファミリー割引:大人同伴の小・中学生は2割引
- 65歳以上の方:体力面を考慮し、外乗Bコース以外を推奨
- 5名以上のグループ:事前相談必要
営業時間・予約方法
- 夏期:10:00〜17:00
- 冬期:10:00〜15:00
- 予約:電話またはホームページのお問い合わせフォームで事前予約推奨
- レンタル用品:ヘルメット、チャップス、長靴など無料貸出
ムツ牧場の哲学
津山剛代表は「乗る時間だけが乗馬ではなく、鞍付け、片付け、馬とのコミュニケーションまで、すべてを経験し、本当の乗馬の楽しさを知っていただきたい」と語ります。これはまさにムツゴロウさんの「動物との真の交流」という理念の継承です。
訪問時の注意点
- 天候による変更:乗馬時間やプログラムは天候や馬の状態により変更の場合あり
- 服装:動きやすい服装(乗馬用品は無料レンタル可能)
- 安全管理:駈歩(かけあし)は安全管理上、基本的に行いません
周辺観光スポット
ムツ牧場訪問と合わせて楽しめる中標津町周辺の見どころ:
- 開陽台:360度パノラマ展望台
- トドワラ・ナラワラ:野付半島の自然景観
- 知床国立公園:世界自然遺産
- 根室海峡:バードウォッチングスポット
北海道を訪れる際は、ぜひムツ牧場でムツゴロウさんの精神に触れ、道産子馬たちとの真の交流を体験してみてください。きっと、動物との新しい関係性を発見できるはずです。
