石ノ森章太郎『アニマル・ファーム』1970年に問う動物搾取と革命

石ノ森章太郎『アニマル・ファーム』ちくま文庫版の表紙

1月25日は、『サイボーグ009』『仮面ライダー』で知られる石ノ森章太郎先生の誕生日です。

そして同じ日に生まれた漫画家が、『銀河鉄道999』の松本零士先生(1938年1月25日生まれ)。運命的に同じ誕生日を共有する二人の巨匠は、ともに動物を題材にした印象的な作品を残しています。

今回ご紹介するのは、石ノ森先生がジョージ・オーウェルの名作『動物農場』を漫画化した『アニマル・ファーム』。1970年に『週刊少年マガジン』で連載され、2018年に待望の文庫化を果たした幻の傑作です。

「動物を搾取から解放する」という理想を掲げた動物たちの革命は、やがて新たな支配構造を生み出していきます。50年以上前に描かれたこの物語が、現代の私たちに問いかけるものとは何でしょうか。

目次

作品の基本情報

項目詳細
作品名アニマル・ファーム
漫画石ノ森章太郎
原作ジョージ・オーウェル『動物農場』(1945年)
掲載誌『週刊少年マガジン』(講談社)
連載期間1970年35号~38号(全4回)
文庫版発売日2018年11月8日
出版社筑摩書房(ちくま文庫)
価格814円(税込)
収録作品「アニマル・ファーム」「くだんのはは」「カラーン・コローン」

石ノ森章太郎とは?動物を愛した「萬画家」

1月25日生まれの巨匠

石ノ森章太郎生家(宮城県登米市)
石ノ森章太郎先生の生家(宮城県登米市)。1938年1月25日、ここで石ノ森先生は生まれました

石ノ森章太郎(本名:小野寺章太郎)

項目詳細
生年月日1938年1月25日
出身地宮城県登米郡(現・登米市)
デビュー1954年(15歳)『二級天使』
代表作『サイボーグ009』『仮面ライダー』『がんばれ!!ロボコン』『さるとびエッちゃん』『佐武と市捕物控』『マンガ日本の歴史』
没年1998年1月28日(享年60歳)
ギネス記録一人の著者による最も多い漫画の出版(500巻770作品)

「漫画」ではなく「萬画」

石ノ森駅に展示された仮面ライダーとサイボーグ009のフィギュア
石ノ森駅(宮城県)に展示された仮面ライダーとサイボーグ009のフィギュア。石ノ森章太郎先生の代表作

石ノ森先生は自らの作品を「漫画」ではなく「萬画」と呼びました。

これは「あらゆるものを描く」という意味を込めた造語です。ヒーローもの、SF、時代劇、歴史、ギャグ、少女漫画、そして動物…と、本当にあらゆるジャンルを描き続けた石ノ森先生らしい言葉です。

💬 「萬画」に込められた想い 石ノ森先生は「漫画は単なる娯楽ではなく、人間の喜怒哀楽すべてを描ける表現手段だ」と考えていました。『アニマル・ファーム』はまさに、動物たちを通して人間社会の本質を描く「萬画」の真骨頂です。

動物を描いた石ノ森作品たち

石ノ森先生は、キャリアを通じて数多くの動物キャラクターを生み出しました。

代表的な動物キャラクター:

  • ブク(『さるとびエッちゃん』)- 大阪弁を話すブルドッグ
  • ロボ(『アンドロイドV』)- グレートハウンド犬
  • 『カラスを拾った日』 – 実体験をもとにした作品
  • 『子ねこをひろったみこ』 – 子供目線で描く動物との絆

石ノ森先生の作品には、単なるマスコットではなく、人間と対等な存在として描かれる動物たちが多く登場します。


ジョージ・オーウェルの原作『動物農場』とは

全体主義への警鐘

ジョージ・オーウェル(1903-1950)『動物農場』の著者
ジョージ・オーウェル(1903-1950)イギリスの作家・ジャーナリスト。『動物農場』『1984年』の著者

ジョージ・オーウェル(1903-1950)はイギリスの作家・ジャーナリストです。『1984年』と並ぶ代表作『動物農場』は、1945年に発表されました。

原作の背景:

  • 第二次世界大戦中のソビエト連邦を風刺
  • スターリンの独裁体制への批判
  • ロシア革命が理想から独裁へと堕ちていく過程を寓話化

オーウェル自身がスペイン内戦に従軍した経験から、革命が権力の腐敗によって裏切られる過程を目の当たりにしていました。

あらすじ|理想の崩壊

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第一章:メージャー爺さんの大演説

イギリスの「マナー農場」。ある夜、賢い老豚メージャー爺さんが動物たちを集め、演説します。

「我々の一生は悲惨で困難に満ち、短い。我々は生まれると同時に太らされ、精根尽き果てるまで働かされる。やがて利用価値がなくなると、恐るべき残酷さで屠殺される。イングランドにおいて、自由な動物は存在しないのだ」

メージャー爺さんは動物たちに「人間を追い出し、動物による動物のための農場を作ろう」と訴えます。そして、古い歌『イングランドの獣たち』を教え、その後まもなく死去します。

第二章:革命の成功

飲んだくれの農場主ジョーンズ氏を追い出し、動物たちは「動物農場」を建国します。

7つの掟:

  1. 二本足で歩く者は敵である
  2. 四つ足で歩くか、翼のある者は友である
  3. 動物は衣服を着てはならない
  4. 動物はベッドで寝てはならない
  5. 動物は酒を飲んではならない
  6. いかなる動物も他の動物を殺してはならない
  7. すべての動物は平等である

賢い豚のスノーボールとナポレオンがリーダーとなり、動物たちは幸せな日々を送ります。

第三章:権力の集中

しかし、ナポレオンは密かに訓練した大型犬を使ってスノーボールを追放。独裁者として君臨し始めます。

弁舌巧みな豚スクィーラーが宣伝係となり、動物たちを言いくるめていきます。

第四章〜終章:堕落と絶望

豚たちは人間の家に住み、ベッドで寝て、酒を飲み始めます。「7つの掟」は密かに書き換えられ、最後には:

「すべての動物は平等である。しかし、ある動物は他よりもっと平等である」

という恐ろしい言葉に変わります。

働き者の馬ボクサーは、身体が動かなくなると食肉工場に売られ、その代金で豚たちはウィスキーを買います。

物語の最後、豚たちは二本足で歩き、人間と酒を酌み交わします。もはや豚と人間の区別がつきません。


石ノ森版『アニマル・ファーム』の独自性

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原作とは異なる結末

石ノ森版の最大の特徴は、原作と結末が異なる点です。

原作の結末:

  • 豚たちが完全に人間化
  • 動物たちに希望はない
  • 絶望的な終わり方

石ノ森版の結末:

  • 堕落した豚たちに動物たちが激怒
  • 再び革命を起こす
  • ナポレオンとスクィーラーが追い詰められたところで終わる

💬 なぜ結末を変えたのか 1970年という時代背景を考えると、石ノ森先生は若い読者に「諦めるな」というメッセージを送りたかったのかもしれません。完全な絶望ではなく、「おかしいと思ったら立ち上がる勇気」を描いたのです。

1970年という時代

『アニマル・ファーム』が連載された1970年の『週刊少年マガジン』は伝説的な時代でした。

同時期に連載されていた作品:

  • ちばてつや『あしたのジョー』
  • 川崎のぼる『巨人の星』
  • ジョージ秋山『アシュラ』
  • 山上たつひこ『光る風』
  • 永井豪『キッカイくん』

社会問題を真正面から描く作品が多かった時代。『アニマル・ファーム』もその流れの中で、権力の腐敗と民衆の抵抗を描いたのです。


動物福祉の視点から読み解く『アニマル・ファーム』

「動物の搾取」という普遍的テーマ

この作品は政治風刺として読まれることが多いですが、動物福祉の観点からも非常に示唆に富んでいます。

メージャー爺さんの演説を読み直す:

「我々は生まれると同時に体を肥え太らすための多くの餌を与えられる。そして我々のうちそれが可能な者は精根尽き果てるまで働かされる。やがて我々の利用価値が無くなるとその瞬間に我々は恐るべき残酷さで屠殺される」

これは畜産動物の現実そのものです。

現代の畜産における動物の扱い:

  • 食肉用動物:太らせるために大量の餌を与えられ、最適な時期に屠殺される
  • 乳牛:乳が出なくなると食肉に回される
  • 採卵鶏:卵を産めなくなると処分される

ボクサーの悲劇|働く動物の運命

物語の中で最も心を打つのが、働き者の馬ボクサーです。

ボクサーの口癖:

  • 「もっと働けばいい」
  • 「ナポレオンは間違っていない」

ボクサーは誠実で、疑うことを知りません。農場のために身を粉にして働き続けます。

しかし、老いて働けなくなった途端、豚たちは彼を食肉工場に売り飛ばします

💬 現代への問いかけ 「働けなくなった動物はどうなるのか」という問いは、現代の動物利用全般に通じます。競走馬、使役動物、実験動物…。人間の都合で利用され、用済みになれば処分される構造は、今も続いています。

「平等」とは何か

作品の核心は「すべての動物は平等である」という掟です。

しかし最後には: 「すべての動物は平等である。しかし、ある動物は他よりもっと平等である」

という矛盾した言葉に書き換えられます。

現実の動物社会における「不平等」:

  • 犬や猫:愛護動物として法的保護
  • 牛や豚:食用として利用
  • 野生動物:保護対象と害獣の二分化

同じ命なのに、人間の都合で扱いが全く異なります。

すべての動物の命に価値がある。しかし現実には、種によって扱いが大きく異なる。この矛盾にどう向き合うかが問われています。


同じ1月25日生まれ|松本零士先生との不思議な縁

運命的な共通点

![松本零士先生の写真イメージ]

冒頭でも触れましたが、石ノ森章太郎先生と松本零士先生はまったく同じ1938年1月25日生まれです。

二人の共通点:

  • 同じ生年月日(1938年1月25日)
  • 手塚治虫先生から強い影響を受けた
  • 手塚先生の『ぼくのそんごくう』の代筆に関わった(別々の場所で)
  • ともに動物を主人公にした作品を描いた
  • 生涯を通じて西武池袋線沿線に住み続けた

西武池袋線という深い縁

二人の巨匠は、同じ西武池袋線沿線で生涯を過ごしました。

石ノ森章太郎先生の西武池袋線人生:

  • 椎名町駅(1956〜1961年):トキワ荘時代、漫画家としての青春期
  • 桜台駅(1961年〜1998年逝去まで):生涯の創作拠点

桜台には、石ノ森先生が毎日のように通ってネーム(漫画の設計図)を描いていた喫茶店「ラタン」があり、ファンの間で聖地として知られていました。「仮面ライダー」や「サイボーグ009」の多くのアイデアも、この桜台の地で生まれたのです。

松本零士先生の西武池袋線人生:

  • 大泉学園駅(25歳〜85歳で逝去まで、60年以上):「練馬が終の棲家」と語った創作の地

💬 二人を結んだ西武池袋線 椎名町→桜台、そして大泉学園。同じ誕生日に生まれた二人の巨匠は、同じ西武池袋線という「一本の線」で結ばれていました。この鉄道沿線が、日本の漫画文化を支えてきたと言っても過言ではありません。

西武池袋線の漫画文化スポット:

  • 椎名町駅:トキワ荘マンガミュージアム、サイボーグ009モニュメント
  • 桜台駅:石ノ森先生が通った喫茶店「ラタン」(現在は閉店)の跡地
  • 大泉学園駅:メーテル・鉄郎の銅像、発車メロディ「銀河鉄道999」、ゆめーてる商店街

二人が描いた動物たち

松本零士先生:

  • 『トラジマのミーめ』- 愛猫との14年間を描いた感動作
  • 『宇宙戦艦ヤマト』のミーくん
  • 『銀河鉄道999』の車掌の猫

石ノ森章太郎先生:

  • 『アニマル・ファーム』- 動物たちの革命と挫折
  • 『さるとびエッちゃん』のブク
  • 『カラスを拾った日』

関連記事: 松本零士先生の『トラジマのミーめ』については、こちらの記事で詳しくご紹介しています。 → 【2025年12月復刻】松本零士『トラジマのミーめ』猫好き必読!ヤマト・999の巨匠が描く愛猫物語


収録作品|『くだんのはは』と『カラーン・コローン』

ちくま文庫版には、表題作のほかに2つの短編が収録されています。

『くだんのはは』(原作:小松左京)

あらすじ: 半人半牛の妖怪「件(くだん)」の伝説をベースにした異色作。生まれてすぐに予言をして死ぬという「件」の悲劇を描きます。

テーマ:

  • 運命と自由意志
  • 人間と動物の境界
  • 生きる意味

『カラーン・コローン』

あらすじ: 怪談『牡丹灯籠』に発想を得た作品。下駄の音「カランコロン」が不気味に響く幻想的なホラー。

特徴:

  • 石ノ森先生の画力が光る
  • 文学作品の漫画化の妙
  • SF性と怪談が融合

💬 3作品に共通するテーマ 『アニマル・ファーム』『くだんのはは』『カラーン・コローン』の3作品に共通するのは、「権力」「運命」「恐怖」という重いテーマです。娯楽性だけでなく、深い思索を促す石ノ森先生の「萬画」精神が貫かれています。


まとめ|『アニマル・ファーム』が現代に問いかけるもの

石ノ森章太郎先生の『アニマル・ファーム』は、50年以上前に描かれた作品ですが、そのテーマは色褪せていません。

この作品が教えてくれること:

  1. 権力は腐敗する どんなに理想的な革命も、権力を握った者が変質する危険性がある
  2. 動物の搾取は続いている メージャー爺さんが訴えた「動物の悲惨な一生」は、現代の畜産動物にも当てはまる
  3. 諦めない勇気 石ノ森版の結末は、「おかしいと思ったら立ち上がる」というメッセージ
  4. 情報操作の恐ろしさ スクィーラーによる巧みな情報操作は、現代のフェイクニュース問題にも通じる
  5. 命の平等 「すべての動物は平等である」という理想と、現実の不平等にどう向き合うか
  6. 運命的な縁 同じ1月25日生まれ、同じ西武池袋線沿線で暮らした石ノ森章太郎先生と松本零士先生。二人が残した動物作品は、時代を超えて私たちに問いかけ続ける

💬 最後に 動物を愛しながら肉を食べる。ペットは家族のように扱うが、家畜は商品として扱う。この矛盾に向き合うことが、現代を生きる私たちに求められています。『アニマル・ファーム』は、そのための重要な一冊です。

1月25日という特別な日に

石ノ森章太郎先生の誕生日である1月25日。同じ日に生まれ、同じ西武池袋線沿線で生涯を過ごした松本零士先生と共に、動物を愛し、動物を描き続けた二人の巨匠の作品に、改めて触れてみてはいかがでしょうか。

西武池袋線で辿る二人の足跡:

石ノ森章太郎先生:

  • 椎名町駅:トキワ荘(1956〜1961年)青春時代
    • トキワ荘マンガミュージアム
    • サイボーグ009モニュメント
  • 桜台駅:生涯の創作拠点(1961〜1998年)
    • 喫茶店「ラタン」で多くの名作が生まれた

松本零士先生:

  • 大泉学園駅:終の棲家(60年以上)
    • メーテル・鉄郎の銅像
    • 発車メロディ「銀河鉄道999」
    • ゆめーてる商店街

二人が過ごした西武池袋線の街を訪れながら、『アニマル・ファーム』と『トラジマのミーめ』を読むのも素敵です。

一本の鉄道沿線が、日本の漫画文化を支え、動物たちへの愛を育んできたのです。


参考文献・出典

この記事の作成にあたり、以下の資料を参照しました。

  1. 筑摩書房公式 – アニマル・ファーム特設ページ
  2. 石森プロ公式サイト – 『アニマル・ファーム』ちくま文庫から発売
  3. 石森プロ – 石ノ森章太郎アニマル特集
  4. Wikipedia – 動物農場
  5. Wikipedia – 石ノ森章太郎
  6. 楽天ブックス – アニマル・ファーム
  7. 講談社コミックプラス – アニマル・ファーム
  8. 文春オンライン – 1月25日は石ノ森章太郎、松本零士の誕生日です
最後まで読んでくださって、ありがとうございました!
動物たちの魅力をお伝えできていれば嬉しいです ♡
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