春の足音が近づくころ、ニュースで「熊が出た」という報道が増えてきます。
でも少し立ち止まって考えてみてください。熊はなぜ、春になると人里に下りてくるのでしょう?
この記事では、熊の冬眠明けのメカニズムと時期をわかりやすく解説するとともに、出没の「本当の背景」と、駆除に頼らない共存のヒントをお伝えします。
熊の冬眠はいつから?明けるのはいつ?
日本に生息する熊は、ヒグマ(北海道)とツキノワグマ(本州・四国)の2種類です。生息地によって冬眠の時期は少し異なります。
| 種類 | 冬眠開始 | 冬眠明け | 生息地 |
|---|---|---|---|
| ヒグマ | 11月下旬〜12月上旬 | 3月下旬〜4月 | 北海道 |
| ツキノワグマ | 11月中旬〜12月 | 3月〜4月下旬 | 本州・四国 |
冬眠期間はおよそ3〜5ヶ月。ただし、気温の変化や積雪量、その年の食料の豊凶によって時期は前後します。
冬眠中の熊の体はどうなっているの?
熊の冬眠は「ただ眠っているだけ」ではありません。体の中では驚くような変化が起きています。
体温・心拍数の低下: 体温は平常時(37〜39℃)から31〜35℃程度に低下。心拍数は通常の約半分に減少し、飲まず食わずのまま3〜4ヶ月を過ごします。
浅い眠り: 爬虫類などの冬眠とは違い眠りは浅く、近づく足音だけで目覚めることもあります。

冬眠前に体重を3〜4割増やし、その脂肪をゆっくり燃やしてエネルギーにしているんです。冬眠明けには体重が15〜30%ほど減少することもあります。
また、繁殖したメスは冬眠中の1月〜2月頃に出産します。春に巣穴を出てくる際には子連れになっているため、冬眠明けが通常より1ヶ月ほど遅れることが多いのが特徴です。
冬眠明けはなぜ危険なのか
熊との遭遇リスクが高い時期は、冬眠明けの4〜5月と、冬眠前の9〜11月です。なかでも春は、以下の理由から特に注意が必要です。
春(4〜5月)が特に危険な3つの理由
- 極度の空腹: 数ヶ月間飲まず食わずで目覚めるため、食べ物を求めて必死になります。
- 母熊の警戒心: 子連れのメスは本能的に子どもを守ろうとするため、非常に敏感になっています。
- 行動範囲の拡大: 山の食料(山菜・若芽など)を求めて、広い範囲を活発に行動します。

知っておいてほしいこと 熊は決して好戦的な動物ではありません。「突然出くわした驚き」「食料を守ろうとする本能」「子どもを守る母性」が重なって事故が起きることがほとんどです。
冬眠穴が見つかった場所には絶対に近づかないことが重要です。
熊が人里に来る「本当の理由」
「熊が増えすぎた」「怖い動物だから」と報道されることも多いですが、実際には人間側の環境変化が大きく関係しています。
① 山の食料が激減している(気候変動と伝染病)
熊は肉食の猛獣というイメージを持たれがちですが、実は食事の8〜9割を植物が占める「雑食動物」です。
秋の主食であるブナやミズナラといった木のドングリ(木の実)は、冬眠に向けた大切なカロリー源です。
しかし近年、異常な猛暑や雨不足といった気候変動による大凶作に加え、「ナラ枯れ」と呼ばれる樹木の伝染病が猛威を振るい、ドングリの木が大量に枯死しています。
ナラ枯れを広げる虫は「放置されて太く育ちすぎた古い木」を好んで繁殖するため、人間が山の木を薪や炭として使わなくなったことが、被害拡大の引き金になっています。
② 大規模開発による「住処」の破壊
私たちの生活を支えるための開発も、熊を山から追い出す原因になっています。
近年特に問題視されているのが、メガソーラー(大規模太陽光発電)や風力発電施設の建設に伴う森林伐採です。
エコと言われる再生可能エネルギーの開発が、皮肉にも熊の豊かな生息地を切り開き、エサ場を奪う結果につながっているケースも少なくありません。
③ 人と森を分ける「見通しの良い境界」が消えた
熊は本来とても臆病で、身を隠せない開けた明るい場所を嫌がります。かつての里山は、人が薪拾いや草刈りをして定期的に手入れをすることで、「深い森」と「人間の村」の間に、熊が隠れられない見通しの良い境界エリアが保たれていました。
しかし過疎化・高齢化により、手入れされない草むらや放置された人工林が増え、熊が村のすぐそばまで身を隠しながら近づけるようになってしまったのです。

動物福祉の視点から考える 熊は本来、豊かな森の中でひっそりと暮らしている動物です。「ただの厄介な害獣」として扱うのではなく、彼らが「山を下りざるを得なくなった理由」に目を向けることこそが、根本的な問題解決の第一歩です。


こんなに穏やかな瞳をした生き物を、ただ『怖い』という理由だけで駆除して良いのでしょうか。彼らが安心して森で暮らせる環境を整えることは、私たち人間に課せられた責任かもしれません。
駆除に頼らない共存のための対策
熊の出没を減らすためには、「出てきた熊を排除する」ではなく「出てこなくて済む環境をつくる」という発想の転換が大切です。
集落・地域でできること
- 生ゴミ・残飯の徹底管理: 熊を引き寄せる最大の要因。密閉容器で管理しましょう。
- 耕作放棄地・果樹園の管理: 放置された果実は格好のエサ場になります。収穫後は必ず回収を。
- 緩衝帯(刈り払い)の整備: 集落と森の間に、見通しのよい帯状の空間を作ります。
- 電気柵の設置: 農地周辺への導入で、被害が減少した報告例が多数あります。
山や自然に出かけるときの個人対策
- 熊鈴・ラジオを携帯する: 熊は基本的に人を避けます。人間の存在を知らせることが最大の予防策です。
- 出没情報を確認する: 各自治体や環境省の最新情報を事前にチェックしましょう。
- 早朝・夕方に注意: 熊の活動がもっとも活発な時間帯です。
- 遭遇したら走って逃げない: 熊は時速40km以上で走るため、人間は絶対に逃げ切れません。また、背を向けて走ると反射的に追いかけてくる習性があります。静かに熊から目を離さず、ゆっくり後ずさりして離れましょう。熊スプレーの携帯も有効です。
- 絶対にエサを与えない(車から食べ物を投げない): 「お腹を空かせてかわいそう」という善意での餌付けは、絶対にNGです。人間の食べ物の味を覚えた熊は「人=エサをくれる」と学習して人里に執着するようになり、結果的に「危険な熊」として殺処分(駆除)される運命を辿ります。餌付けは熊の命を奪う行為だと認識しましょう。

ニュースの報道だけを見ると恐怖を感じてしまいますが、熊もまた、生きるために必死なだけなのです。「怖いから駆除する」という感情論ではなく、彼らの生態や森の現状を正しく理解し、「出てこなくて済む環境」を人間側から作っていくこと。それが、真の共存への第一歩です。
まとめ
- 冬眠明けは3〜4月頃(ヒグマは3月下旬〜、ツキノワグマは3月〜4月下旬)。
- 冬眠明けは「極度の空腹状態」+「子連れ」のため、1年でもっとも注意が必要。
- 人里への出没は、ドングリ不作・里山の荒廃・人工林の増加など人間側の環境変化が大きく影響している。
- 対策の根本は「出てこなくて済む環境づくり」(ゴミ管理・緩衝帯の整備・電気柵など)。
- 山に入る際は、熊鈴の携帯と最新の出没情報の確認を忘れずに。

参考文献・出典
- 環境省「クマ類の生息状況、被害状況等について」 https://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort12/kuma-habitat.pdf
- 環境省「クマに注意——思わぬ事故を避けよう——」 https://www.env.go.jp/nature/choju/docs/docs5-4a/kids/full.pdf
- WWFジャパン「シリーズ:クマの保護管理を考える(7)クマの冬眠の謎にせまる」 https://www.wwf.or.jp/activities/opinion/2268.html
- 日本熊森協会「野生動物の危機」 https://kumamori.org/bear.html
- チューリッヒ保険 Green Times「クマ出没は森林環境からのメッセージ?研究者と考える人と野生動物の共存」(北海道大学 坪田敏男教授コメントより) https://www.zurich.co.jp/sustainability/articles/clm25112/
- 立命館大学 shiRUto「クマ被害から見える”共存社会”への道」(桜井良准教授コメントより) https://shiruto.jp/life/6389/
- のぼりべつクマ牧場「クマの冬ごもり~飲まず食わずで生き抜く冬~」 https://bearpark.jp/lecture/2388/
- ヒグマ研究室「ヒグマの一年」 https://naochiaki.biz/higuma/year/
- 森林総合研究所「ミズナラ結実調査(2016–2023)」・環境省出没統計(ねんごろ記事より引用) https://nengoro.com/column/ecology/donguri/






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