鷹(たか)や鷲(わし)は、鋭い目と爪を持ち、空高く飛ぶ猛禽類(もうきんるい)です。
その力強い姿は、古代から人々の想像力を刺激してきました。神の姿として崇拝されたり、王や国家の権威を表す紋章に使われたり、日本では武士や縁起物と結びついたりしています。
鷲は、神聖さ・権力・国家・自由などの象徴として使われることが多く、鷹や隼は、鋭敏さ・俊敏さ・武勇・先を見通す力と結びつけられてきました。
ただし、こうした意味は世界共通ではありません。文化や時代によって、同じ鳥が異なる意味を持つこともあります。
この記事では、世界の神話や国章、鷹狩り、日本のことわざを通して、人間が鷹や鷲にどのような意味を与えてきたのかを紹介します。
鷹と鷲は何を象徴してきたのか
鷹と鷲に与えられてきた代表的なイメージをまとめると、次のようになります。
| 鳥 | 結びつけられることが多い意味 | 文化的な例 |
|---|---|---|
| 鷹(たか) | 鋭敏さ、洞察力、俊敏さ、武勇 | 日本の鷹狩り、武家文化、タカ派 |
| 鷲(わし) | 神聖さ、権力、国家、自由、威厳 | ゼウス、ローマ軍、各国の国章 |
| 隼(はやぶさ) | 天空、王権、速さ、狩りの能力 | 古代エジプトのホルス神、鷹狩り |
| 鳶(とんび) | 身近さ、機転、思いがけない横取り | 日本のことわざ、里山の風景 |
これらは、鳥の生態そのものを表す科学的な分類ではありません。
人間が、
- 高い場所を飛ぶ
- 遠くを見渡す
- 獲物をすばやく捕らえる
- 鋭い爪とくちばしを持つ
といった姿から連想し、文化的な意味を与えたものです。
特に鷹は、かつて有力者でなければ所有することが難しく、日本の美術でも権力や勇猛さの象徴として描かれました。
鷹と鷲の生き物としての違いについては、次の記事で詳しく説明しています。
鷹・鷲・鳶・隼は英語で何という?
鷹や鷲を英語で表す場合、一般には次の言葉が使われます。
| 日本語 | 英語 | 読み方 |
|---|---|---|
| 鷹 | hawk | ホーク |
| 鷲 | eagle | イーグル |
| 鳶・トビ | kite | カイト |
| 隼 | falcon | ファルコン |
| 猛禽類 | raptor/bird of prey | ラプター/バード・オブ・プレイ |
| 鷹狩り | falconry | ファルコンリー |
ただし、日本語の「鷹」と英語の「hawk」、「鷲」と「eagle」が、分類上きれいに一対一で対応するわけではありません。
鷹と鷲は、どちらも主にタカ科に属する鳥を、大きさや姿などから慣習的に呼び分けたものです。英語のhawkとeagleにも同様の傾向がありますが、厳密な分類名ではありません。
記事に登場する主な鳥の英語名は、次のとおりです。
| 日本語名 | 英語名 |
|---|---|
| オオタカ | Eurasian Goshawk |
| イヌワシ | Golden Eagle |
| オオワシ | Steller’s Sea-Eagle |
| トビ | Black Kite |
| ハヤブサ | Peregrine Falcon |
| ハクトウワシ | Bald Eagle |
なお、オオタカは以前、英語で広く Northern Goshawk と呼ばれていました。しかし近年、ユーラシアのオオタカと北米の個体群が別種として扱われるようになり、日本に生息するオオタカの英語名は Eurasian Goshawk とされています。
また、「鷹狩り」は英語でfalconryといいます。名前にfalconが含まれていますが、実際には隼だけでなく、鷹や鷲などの猛禽類を使う場合もあります。
古代の神話と信仰に登場する鷹・鷲・隼
古代エジプトのホルス神は隼の姿
古代エジプトのホルス神は、隼の姿、または隼の頭を持つ人物として表されました。
日本語では鷹の神と紹介されることもありますが、英語資料では一般に「falcon」とされています。つまり、分類上は鷹よりも隼に近い鳥です。
ホルス神は王権と深く結びついていました。古代エジプトの王はホルス神と関連づけられ、隼の姿をしたホルス像には上下エジプトの統一を表す王冠が付けられることもあります。

空を飛び、地上を見渡す隼の姿は、国土を見守る王や天空の神を表すのにふさわしいと考えられたのでしょう。
ゼウスと鷲の関係

ギリシャ神話では、鷲は最高神ゼウスと強く結びついています。
神話によっては、鷲がゼウスの鳥として登場するだけでなく、ゼウス自身が鷲の姿に変身することもあります。
よく知られているのが、トロイアの美少年ガニュメデスをオリンポス山へ連れていく物語です。ゼウスは鷲の姿となり、ガニュメデスを神々の給仕として迎えたと伝えられています。
この場面は古代から近代まで、彫刻、宝飾品、版画、素描など多くの美術作品に描かれてきました。
鷲は、天空を支配するゼウスの力や威厳を視覚的に表す存在となったのです。
北米先住民文化における鷲の羽
北米先住民の多くの部族では、白頭鷲やイヌワシの羽が、宗教的・文化的に重要な意味を持っています。
アメリカ魚類野生生物局によると、鷲の羽や体の一部は、癒やし、結婚、命名などの儀式で使用されることがあります。鷲を保護しながら伝統的な利用を可能にするため、政府が運営するNational Eagle Repositoryから、条件を満たした部族の構成員へ羽などを提供する制度もあります。
ただし、北米先住民には数多くの異なる民族と部族があります。
鷲が持つ意味や、儀式での使われ方は部族によって異なるため、「ネイティブアメリカンは全員こう考える」とひとまとめにすることはできません。
鷲が国家と権力の象徴になった理由
鷲は世界各地で、軍隊や帝国、国家の紋章に用いられてきました。
その背景には、
- 大型で力強い
- 高い場所を飛ぶ
- 広い範囲を見渡す
- 他の鳥を圧倒するような威厳がある
という、人間が鷲に抱いてきたイメージがあります。
古代ローマの鷲「アクィラ」
古代ローマの軍団では、鷲をかたどった軍旗が用いられました。
この軍団旗はラテン語で「アクィラ(Aquila)」と呼ばれ、軍団を表す非常に重要な存在でした。
大英博物館は、ローマ軍団の鷲の軍旗について、ほかの軍旗よりも特に尊ばれていたと説明しています。戦場で軍団旗を失うことは、軍団全体の名誉を失うほど重大な出来事でした。
鷲は単なる飾りではなく、軍団の誇りと結束を表していたのです。
アメリカ合衆国の白頭鷲
白頭鷲(はくとうわし)は、1782年に採用されたアメリカ合衆国の国璽(こくじ)に描かれています。
国璽の白頭鷲は、一方の足に平和を表すオリーブの枝、もう一方の足に戦いを表す矢を持っています。国として平和を望みながら、必要な場合には自国を守る意思を表した構図です。
白頭鷲は長い間、アメリカを代表する鳥として知られてきました。
しかし、法律によって正式に「国鳥」と指定されたのは、2024年12月23日です。それまでは国の象徴ではあっても、法律上の国鳥という地位は明記されていませんでした。
ドイツの連邦鷲
ドイツの国章には、「ブンデスアドラー(Bundesadler)」と呼ばれる一頭の鷲が描かれています。
ドイツ連邦議会によると、鷲はドイツで最も伝統のある国家的シンボルであり、その起源は神聖ローマ帝国の初期にまでさかのぼります。
時代によって一頭の鷲と双頭の鷲が使い分けられ、王や皇帝、国家の権威を示してきました。
メキシコの鷲と蛇
メキシコの国章には、サボテンの上で蛇をくわえる鷲が描かれています。
この図像は、メシカの人々がテノチティトランを建設した場所に関する伝承と結びつけられてきました。メキシコ政府も、鷲・蛇・サボテンの組み合わせを国の成立とアイデンティティを表すものとして紹介しています。
ただし、現在よく知られている「鷲が蛇を食べる」という形が、征服以前から同じ意味で存在したのかについては研究上の議論があります。
メキシコ国立人類学歴史研究所では、古い図像や文献を検討し、現在の国章が成立するまでの過程を研究しています。
そのため、「アステカ神話に最初から現在とまったく同じ国章が登場した」と断定するのは避けたほうがよいでしょう。
ロシアの双頭の鷲
ロシアの国章には、二つの頭を持つ金色の鷲が描かれています。
現在の公式な国章では、双頭の鷲が王笏(おうしゃく)と宝珠を持ち、胸の盾には竜を倒す騎士が描かれています。
双頭の鷲には歴史上さまざまな解釈があります。
「一方の頭がヨーロッパ、もう一方がアジアを表す」と説明されることもありますが、ロシア政府の公式な国章説明では、その意味は明記されていません。
そのため、特定の解釈だけを国章の正式な意味として断定しないほうが正確です。
世界に広がった鷹狩りの歴史

中世〜近代にかけて、鷹狩りはヨーロッパ貴族の象徴的な娯楽でした。
本図は複数の画家によって描かれた作品からのスキャン画像で、当時の鷹狩文化とサギ狩り(Reiherbeize)の様子が表現されています。
(出典:Wikimedia Commons[Public Domain])
鷹狩り(たかがり)は、訓練した猛禽類を放ち、野生の鳥や動物を捕らえる伝統的な狩猟方法です。
英語では一般に「falconry」と呼ばれますが、使用される鳥は隼だけではありません。
地域によっては、
- ハヤブサ
- オオタカ
- ハイタカ
- ノスリ
- イヌワシ
など、さまざまな猛禽類が使われます。
ユネスコによると、鷹狩りには4000年以上の歴史があり、古代から中世にかけて世界各地で記録されてきました。
当初は食料を得る方法でしたが、やがて共同体の伝統、娯楽、自然との関わり方を表す文化として受け継がれるようになりました。
鷹狩りの発祥地はひとつに決められない
鷹狩りは中央アジアが発祥と書かれることがあります。
しかし、非常に古い時代から広い地域で行われているため、どこか一か所だけを発祥地として断定するのは難しいとされています。
そのため、記事では、
鷹狩りはアジア、中東、ヨーロッパなど、世界のさまざまな地域で発展した
と説明するのが安全です。
鷲も鷹狩りに使われる
「鷲は訓練が難しいため、鷹狩りにはほとんど使われない」と説明されることがありますが、これは正確ではありません。
中央アジアの一部では、イヌワシを使った狩猟文化があります。
ユネスコも、鷹狩りでは隼だけでなく、鷲、鷹、ノスリなどが使われる場合があると説明しています。
使われる鳥は、土地の地形、獲物の種類、その地域で受け継がれてきた技術によって異なります。
日本の鷹狩りと武家社会

日本の鷹狩りには古い歴史があります。
『日本書紀』には、古代の日本で鷹を飼い、狩りに使ったことを伝える記述があります。奈良・平安時代には、宮廷文化の一部として天皇や貴族に好まれました。
その後、武家社会が成立すると、鷹狩りは武士の間にも広がります。
徳川美術館は、日本の鷹狩りについて、古代から江戸時代にかけて天皇、貴族、武士の間で好んで行われたと説明しています。捕らえた鳥や鷹そのものが、献上や拝領に用いられる儀礼的な側面もありました。
鷹は権力の象徴だった
鷹を飼育し、訓練し、狩りを行うには、多くの人手と広い土地が必要です。
鷹匠(たかじょう)だけでなく、
- 鷹を育てる人
- 鷹場を管理する人
- 鷹の巣を探す人
- 狩りに同行する人
- 猟犬や馬を扱う人
など、多くの人々によって支えられていました。
そのため、鷹を所有し、鷹狩りを行えること自体が、身分や権力の証明になりました。
江戸時代には、将軍や大名が所有する鷹を「御鷹(おたか)」と呼び、鷹狩りを行う場所である鷹場も管理されました。
徳川家と鷹狩り
徳川家康は鷹狩りを好んだ人物として知られています。
ただし、鷹狩りは単なる娯楽ではありませんでした。
領地の様子を確認する機会となり、身体の鍛錬や、将軍と大名の関係を示す儀礼としても機能しました。
鷹や獲物を献上したり、将軍から鷹を与えられたりすることは、政治的な関係を確認する意味も持っていたのです。
日本の鷹狩りを詳しく知りたい方へ
日本の鷹狩りを歴史、政治、環境、絵画など幅広い視点から知りたい方には、福田千鶴さん・武井弘一さん編『鷹狩の日本史 増補改訂版』があります。
古代・中世・近世の鷹狩りだけでなく、鷹場と地域の人々の暮らし、鷹匠、献上・下賜、鷹狩りを描いた絵画なども扱う専門的な一冊です。
2021年に刊行された初版を増補改訂し、2025年12月に勉誠社から刊行されました。
日本史と動物の関係を深く知りたい方に向いています。
鷹・鷲・鳶が表すイメージ
鷹が象徴するもの
鷹は、鋭い目と俊敏な動きから、次のような意味と結びつけられることがあります。
- 鋭敏さ
- 洞察力
- 先見性
- 俊敏な行動
- 武勇
- 高い能力
- 好機を逃さない姿勢
日本では鷹狩りが武家社会と結びついたため、勇ましさや高い身分を表す鳥としても描かれました。
現代では、政治や外交で強硬な姿勢を取る人を「タカ派」と呼びます。これは英語の「hawks」を訳した言葉で、話し合いよりも強硬な対応を重視する立場を指します。
鷲が象徴するもの
鷲は、大型で威厳のある姿から、次のようなものと結びつけられてきました。
- 神聖さ
- 権威
- 国家
- 軍事力
- 勝利
- 自由
- 独立
- 高い精神性
ただし、「鷲は必ず自由を意味する」というわけではありません。
古代ローマでは軍団と国家の威信、ギリシャ神話では最高神ゼウス、現代の国章では国家の歴史や権威など、文化によって意味が異なります。
鳶が象徴するもの
鳶は、鷹や鷲よりも人間の生活に近い場所で見られる猛禽類です。
河川、海岸、里山だけでなく、都市部でも上空を旋回する姿が見られます。
日本のことわざでは、鷹が「優れた存在」として扱われる一方、鳶は「平凡な存在」や「すきを見て食べ物を取る鳥」として登場します。
もちろん、これは人間が作った文化的なイメージです。
実際の鳶は、滑空しながら効率よく食べ物を探し、さまざまな環境に適応して生きる能力の高い鳥です。
日本のことわざに登場する鷹と鳶
能ある鷹は爪を隠す
能ある鷹は爪を隠す
本当に能力のある人は、その能力をむやみに見せびらかさないという意味です。
獲物を捕らえる鋭い爪を普段は目立たせない鷹の姿から、優れた人物の慎み深さを表す言葉になりました。
鳶が鷹を生む
鳶が鷹を生む
平凡だと見られている親から、優れた子どもが生まれることを表すことわざです。
ここでは鳶が平凡な鳥、鷹が優れた鳥という対比で使われています。
現在では、親と子を比べて優劣をつける表現になるため、実際の人に使う場合には注意が必要です。
鳶に油揚げをさらわれる
鳶に油揚げをさらわれる
油断している間に、大切なものを思いがけない相手に奪われることを表します。
鳶が上空から食べ物を見つけ、すばやく持ち去る姿に由来する表現です。
一富士二鷹三茄子
一富士二鷹三茄子
初夢に見ると縁起がよいものを、富士山、鷹、茄子の順に並べた言葉です。
なぜ鷹が2番目なのかについては、複数の説があります。
- 徳川家康に縁の深い駿河の名物を並べた
- 駿河で高いものを並べた
- 鷹が「高い」や立身出世を連想させる
- 獲物をつかむ姿から、成功をつかむ意味が与えられた
江戸時代にはすでに複数の説があり、由来はひとつに確定していません。
「徳川家康が好きだったものを順番に並べた言葉」とだけ断定するのは避けたほうがよいでしょう。

よくある質問
まとめ
鷹や鷲は、生き物として優れた狩猟能力を持つだけでなく、人間の歴史や文化の中で特別な意味を与えられてきました。
鷹は鋭敏さ、洞察力、俊敏さ、武勇と結びつけられ、鷲は神聖さ、権力、国家、自由などの象徴として使われることが多くあります。
覚えておきたいポイントは次のとおりです。
- ホルス神は隼の姿で表され、王権と結びついていた
- ギリシャ神話では鷲がゼウスの鳥やゼウス自身として登場する
- 古代ローマでは鷲の軍団旗が特別に尊ばれた
- 白頭鷲が正式にアメリカの国鳥になったのは2024年
- 鷹狩りでは地域によって鷲も使われる
- 日本の鷹狩りは宮廷文化から武家社会へ受け継がれた
- 鷹や鳶は日本のことわざにも数多く登場する
鷹や鷲に与えられた意味は、人間がその姿をどのように見てきたかを映す鏡でもあります。
生き物としての特徴と、人間が作り上げた象徴を分けて考えることで、神話や国章、ことわざをより深く理解できるでしょう。
鷹と鷲の実際の強さについては、次の記事で詳しく比較しています。

参考文献・出典
- メトロポリタン美術館「Horus falcon」
- メトロポリタン美術館「Horus falcon figure」
- メトロポリタン美術館「Jupiter, disguised as an eagle, with Ganymede」
- メトロポリタン美術館「Zeus as an eagle, abducting Ganymede」
- U.S. Fish & Wildlife Service「National Eagle Repository」
- British Museum「Legion: life in the Roman army」
- National Archives「Original Design of the Great Seal」
- Congress.gov「Public Law 118-206」
- ドイツ連邦議会「Der Bundesadler」
- メキシコ政府「Escudo Nacional」
- ロシア政府「National Coat of Arms」
- ユネスコ「Falconry, a living human heritage」
- 徳川美術館「鷹狩」
- 埼玉県立歴史と民俗の博物館「鷹のおでまし―鷹狩の美術―」
- 国立国会図書館『鷹狩の日本史 増補改訂版』
- 国立国会図書館レファレンス協同データベース「一富士二鷹三茄子」






