5年ぶりにニューヨークを訪れた私は、かつて30年以上を過ごしたこの街の変化に胸を躍らせながら歩きました。
特に気になったのは、長年親しんできたペットショップたちの現在――。
今回の滞在では、マンハッタンのユニオンスクエアにあるリニューアルしたPetcoを訪れ、
さらにPetSmartにも立ち寄り、
さらにイーストビレッジにひっそりと佇む、長年地元に愛されてきた小さなペットショップも見てきました。
かつては多く見かけた大型ペットショップも、今では数が減り、
ニューヨーク市ではペットの販売が禁止されるなど、
ペットを取り巻く環境も大きく変化しています。
この記事では、
元ニューヨーカーだからこそ感じたニューヨークのペットショップ事情の「今」を、
実際に歩いて、見て、感じたリアルな体験とともにレポートします。
はじめに:5年ぶりに見たニューヨークのペットショップ事情
ペットショップを取り巻くNYの変化とは?
今回の滞在では、マンハッタンのユニオンスクエアにあるリニューアルしたPetcoを訪れ、さらにPetSmartにも立ち寄り、さらにイーストビレッジにひっそりと佇む、長年地元に愛されてきた小さなペットショップも見てきました。
その中で感じたのは、単なる店舗の改装や品揃えの変化だけではありませんでした。まず驚いたのは、かつてはもっと身近に感じられた大手ペットショップの数が、明らかに減っているという実感です。実際に調べてみると、2025年4月現在、マンハッタン内で確認できるPetcoはユニオンスクエアの1店舗のみ、PetSmartもフラットアイアン地区とイーストハーレムの2店舗となっていました(※執筆時点の情報)。過去の記録によれば、例えばPetcoだけでも市内に7店舗以上存在した時期もあったようですから、この変化は顕著です。
この背景には、オンラインショッピングの急速な普及によって実店舗のあり方が見直されていることや、他業態との競争激化があるようです。PetcoもPetSmartも、単に店舗数を増やすのではなく、店舗の質を高め、グルーミングや動物病院などを併設した「トータルケアセンター」へと戦略を転換しているのかもしれません。2023年にPetcoユニオンスクエア店が、旧店舗から移転し、より大型でサービスを充実させたフラッグシップストアとしてオープンしたのも、そうした戦略の表れなのでしょう。
そして、もう一つ大きな変化が、ニューヨーク市で段階的に進められているペットショップでの犬・猫・ウサギの販売禁止(2024年末より施行)です。これも、私が住んでいた頃には考えられなかったことで、ペットを取り巻く環境そのものが大きく変わっていることを痛感しました。
ユニオンスクエアのPetco訪問レポート
リニューアル後のPetcoの様子
まず向かったのは、ユニオンスクエアの北東角、17番街とパークアベニューサウスが交わる場所にある新しいPetcoです。ここは、ニューヨークの歴史的な建造物「タマニーホール」の中にあり、2023年にオープンしたばかり。かつて私がよく利用していた、ブロードウェイ沿いの旧店舗(860 Broadway)から1ブロック東に移転した、2階建て、約2,320平方メートルという広大なフラッグシップストアです。


まず、その洗練された外観に驚きました。ガラス張りのエントランスは明るく開放的で、歴史的建造物の重厚さとモダンなデザインが見事に融合しています。Yelpのレビューで「訪れたことのあるPetcoの中で最も洗練された外観」という声があるのも頷けます。
一歩足を踏み入れると、その広さとデザイン性の高さに再び息をのみました。露出したレンガの壁、美しいヘリンボーン模様の木製フローリング、再生材を利用したという温かみのある什器(商品棚)が、まるで高級ブティックかギャラリーのような空間を作り出しています。


特に印象的だったのは、床から天井まで届く巨大な木の彫刻。照明の効果で葉が揺らめいているように見え、まるで都会のオアシスに迷い込んだかのようです。デザインチームが「世界に類を見ないペットストア」を目指し、ユニオンスクエアパークやファーマーズマーケットの雰囲気を再現したというのも納得の空間でした。
店内の変化と新たな特徴
この新しいPetcoは、単なるペット用品店ではありませんでした。「ペットの健康とウェルネスのワンストップ目的地」というコンセプト通り、様々なサービスが充実しています。
入口近くには、ニューヨークの古い床屋さんをイメージしたという、おしゃれなグルーミングサロン「ラフズ・バーカーショップ (Ruff’s Barker Shop)」があります。セルフサービスのドッグウォッシュコーナーもあり、気軽に利用できそうです。


奥には、総合動物病院「Vetco Total Care」があり、健康診断から予防接種、歯科ケア、皮膚科治療、さらには手術まで対応しているとのこと。昔もあったVetcoクリニックが、さらに本格的な病院へと進化していました。

そして、私が最も驚いたのが「JustFoodForDogs Kitchen」。なんと店内のキッチンで、人間が食べられる品質の新鮮なペットフードをシェフが調理しているのです!これは、ペットフードに対する意識の高まりを象徴していますね。

さらに、Petcoのプライベートブランド「Reddy」の専用ショップ「Reddy Shop」も発見。おしゃれなアパレルやグッズが並び、試着スペースや、その場で名前などを入れられるカスタマイズゾーンまでありました。




他にも、認定トレーナーによるトレーニングを受けられる「Indoor Park」や、ユニオンスクエアのファーマーズマーケットをイメージしたプレミアム商品を集めた「17th & Bark」コーナー、地元の動物福祉団体と連携した猫の譲渡スペース「Petco Love Adoptions」など、まさに至れり尽くせり。ショッピングカートもおしゃれでした!



以前のPetcoとの違い(昔との比較)
私が慣れ親しんだ旧ユニオンスクエア店(1996年から2023年まで営業)は、もっと実用的な、普通のショップでした。
New Petco のお会計エリアに保護動物の譲渡を推進するスペースが設けられていました。
店舗の戦略自体が、単なる「小売店」から、ペットの生涯にわたる健康と幸せをサポートする「トータルケアセンター」へと大きくシフトしたのだと感じました。品揃えも、以前より健康志向・高級志向の商品が増え、体験型サービスに重点が置かれています。移転して、これだけ多くのサービスを集約できたのも、その戦略転換の表れなのでしょうか。正直、昔のPetcoとは全くの別物、と言っても過言ではないほどの進化でした。
PetSmart訪問レポート
店舗の雰囲気と品揃え
ユニオンスクエアの新しいPetcoの進化に驚いた後、今度は大手チェーンのもう一方の雄、PetSmartを訪ねてみました。私が今回向かったのは、23丁目とブロードウェイの角近くにあるマンハッタン・フラットアイアン店 (1107 Broadway) です。
実は、私がニューヨークに住んでいた頃よく利用していたのは、ソーホーにあったPetSmartでした。2フロアーで、グルーミングコーナーはもちろん、子犬や子猫の販売スペースもあったはず…。時代の流れとともに、残念ながらあの店舗も今はもうなくなっています。 今回は初めて、フラットアイアン店を訪れました

正直な第一印象は、「ああ、ここは知っているPetSmartだな」という安心感、そして良くも悪くも「普通のペットショップ」という感じでした。ユニオンスクエアのPetcoがあまりにも洗練され、まるでデパートのように変貌していた後だったので、余計にそう感じたのかもしれません。


イーストビレッジに残るローカルペットショップ
大手チェーンのPetcoやPetSmartを見て回り、その変化や規模に驚かされましたが、ニューヨークの魅力はそれだけではありません。個性的なお店が集まるイーストビレッジを歩いていると、ふと懐かしい雰囲気のペットショップが目に入りました。
こじんまりとした老舗ペットショップの魅力
そのお店は「Whiskers Holistic Petcare」(235 E 9th St)。1988年創業というから、もう35年以上もこの地で営業している老舗です。聞けば、最初はわずか56平方メートルほどの小さなお店からスタートし、当時はまだ珍しかった「ホリスティック(全体的)」なペットケアという考え方を掲げていたそうです。今でこそオーガニックや自然派は一般的ですが、当時はかなり先駆的だったことでしょう。

お店は、100年以上経つという歴史ある建物の中にあり、木製の棚や什器が、まるで小さな田舎のお店のような、温かく居心地の良い雰囲気を醸し出しています。Petcoのモダンさとは対極にある、この手作り感と歴史を感じさせる空間に、いつもほっとします。
地元住民に愛され続ける理由
Whiskersが長年地元の人々に愛され続けている理由は、その独自の哲学とサービスにあります。ここは単に商品を売るだけでなく、ペットのホリスティックな健康とウェルネスを使命としているお店なのです。
店内には、厳選された自然食品、無毒性のおもちゃ、冷凍の生食ペットフード、さらにはホメオパシーのサプリメントまで、まさに「ペット版ホールフーズ」と呼ぶにふさわしい品揃え。スタッフは、訪れた飼い主にあれこれ質問しながら、それぞれのペットの状況をしっかり把握し、最適なケアや食事について親身にアドバイスをくれます。Yelpのレビューでも、その知識の豊富さや丁寧な対応が高く評価されています。
す単に商品を並べるだけでなく、飼い主への教育や、ペットの自然な行動を促すアプローチを重視する姿勢は、大手チェーンにはない大きな魅力です。さらに、売上の一部を地元の動物保護施設に寄付したり、店内で猫の譲渡活動を行ったりと、地域コミュニティへの貢献も大切にしています。
大型店が効率や規模を追求する一方で、Whiskersのようなお店は、専門知識、個別対応、そして地域との繋がりといった価値を提供することで、確固たる地位を築いているのだと感じました。オンラインショッピングや無料配達サービスも提供しており、時代に合わせて変化しつつも、その核となる哲学はぶれていないようです。
ニューヨークのペット文化の変遷
ペット販売禁止になった背景とは?
2022年12月、ニューヨーク州のホーチュル知事は「Puppy Mill Pipeline Act(パピーミル・パイプライン法)」に署名し、州内のペットショップでの犬、猫、ウサギの販売を禁止する法律が成立しました。この法律は「パピーミル」と批判される商業的繁殖施設をターゲットにしており、ペットショップは代わりに保護施設と協力して保護動物の譲渡を行えるようになっています。この法律は2024年12月15日から施行されました。
法案はマイケル・ジアナリス上院副多数派リーダー(クイーンズ選出、民主党)とリンダ・B・ローゼンタール議員が主導し、動物愛護団体から広く支持されました。ローゼンタール議員は「ニューヨーク州は、全国の残酷な非人道的なパピーミルが私たちのペットショップに供給し、動物虐待と無知な消費者から利益を得ることを許さなくなります」と述べています。
この法律の背景には、ニューヨークが「パピーミル」産業の主要な購入者であり利益享受者であったという認識があり、小売レベルでその需要を断つ目的がありました。この法律により、劣悪な環境で繁殖させられた動物の販売による消費者被害(高額な獣医療費など)の防止も期待されています。
この法律は自宅で繁殖させた動物を販売する個人ブリーダーには適用されず、保護団体からの譲渡や認可されたブリーダーからの直接購入は引き続き合法です。違反した場合は、ニューヨーク州司法長官事務所による違反1件につき最大1,000ドルの罰金が科される可能性があります。
これからNYを訪れる人へのメッセージ
もしあなたがこれからニューヨークを訪れるなら、ぜひペットショップにも足を運んでみてください。そこには、最新のペットグッズだけでなく、この街の動物福祉への意識の高さや、ペットと共生する文化の「今」が垣間見えるはずです。そして、もしペットを家族に迎えたいと考えているなら、ぜひ保護施設からのアダプションという選択肢を考えてみてほしいと思います。
5年ぶりの訪問で見たペットショップの姿は、私にとってニューヨークという街の新たな一面を発見する、貴重な体験となりました。
おまけ
愛犬そらくんのお土産の一部です~
