はじめに:急増するイノシシ被害に備えよう
近年、全国各地でイノシシの出没件数が急増し、農作物被害だけでなく人身事故も増加しています。
農林水産省の最新データによると、令和5年度のイノシシによる農作物被害額は約36億円に上り、全国の野生鳥獣による被害額の約22%を占めています。
重要なポイント
- イノシシによる農作物被害額は年間36億円(令和5年度)
- 人身被害は年々増加傾向にあり、令和6年度は11月末時点で兵庫県だけで3件の人身事故が発生
- 市街地への出没も増加し、住宅地での目撃情報が相次いでいる
- 北海道を除く46都府県にイノシシが生息しており、分布域は年々拡大中

イノシシは学習能力が高く、一度餌場を覚えると繰り返し出没します。集落全体で対策を講じることが被害防止の鍵となります。
全国イノシシ出没マップ一覧(都道府県別)
関東地方
埼玉県
- 特徴:西部、北部、秩父地域で出没が確認されています
- マップ:県内の目撃情報をマップで公開
千葉県
- 特徴:緑区を中心に目撃情報が寄せられています
- メール配信:「ちばし安全・安心メール」で最新情報を配信
茨城県
- 特徴:利根川河川敷付近での目撃が多数
- マップ:令和6年度の目撃情報を地図で公開
栃木県
- 特徴:渡良瀬川河川敷での目撃が多い
- 注意:過去に市街地での人身被害が発生
群馬県
注意:国土交通省利根川上流河川事務所が渡良瀬遊水地周辺のイノシシ出没マップを公開しています。
神奈川県
- 特徴:百合が丘地区を中心に市街地での出没が増加
- 注意:令和6年11月に複数回の目撃情報
- 連絡先:生活環境課(0463-71-5879)
東北地方
秋田県
- 特徴:住宅地付近での目撃が増加
- マップ:Google Mapsで最新情報を表示
福島県
- 特徴:2023年4月以降の情報を公開
- マップ:イノシシ、クマ、サル、シカの情報を一元管理
宮城県
- 特徴:イノシシの生態と対策情報を詳しく解説
- 相談:栗原市農林畜産課へ連絡可能
中部地方
新潟県
- 特徴:クマとイノシシの目撃情報を地図で公開
- 通報:クマ・イノシシ等出没通報システムから通報可能
- 特徴:市内山間部での目撃情報を公開
- マップ:クマ出没マップと併せて確認可能
近畿地方
兵庫県
- 重要:令和6年度は11月末時点で3件の人身事故が発生
- 特徴:六甲山周辺の市街地を中心に人身事故が多発
- 11月26日には姫路市内で6人が襲われる事案が発生
九州地方
熊本県
- 特徴:定期的に出没情報を更新
- 連絡:目撃時は市役所へ通報
イノシシ出没の現状と統計データ
2025年の出没状況
農作物被害の実態
令和5年度の被害統計
- 被害額:36億円(全国)
- 全体に占める割合:野生鳥獣被害の約22%
- 被害の内訳:
- 水田:イネの食害が主
- 畑作:イモ類、マメ類、野菜類
- 果樹:ミカン、カキ、ブドウ、モモなど

注意点
イノシシは農作物を直接食べるだけでなく、地面を掘り返して畑や茶畑を荒らします。被害は金額以上に深刻です。
被害が多い地域の特徴
- 九州地方:イノシシ被害が全体の約5割を占める
- 中部地方:長野県、静岡県で被害が増加
- 近畿地方:兵庫県で市街地への出没と人身被害が多発
人身被害の増加
令和6年度の人身被害
- 兵庫県:11月末時点で3件(姫路市で6人が襲われる事案含む)
- 栃木県:足利市で過去に市街地での咬傷事故が発生
- 全国:市街地での被害が増加傾向
被害が発生しやすい状況
- 発情期(晩秋~冬)や出産後で攻撃的になっている時
- 負傷しているイノシシや市街地に迷い込んだイノシシ
- うり坊(子イノシシ)の近くに母親がいる場合
- 至近距離で突然出会った場合
イノシシ出没の原因と背景
主な要因
1. 生息域の拡大
- 分布状況:北海道を除く46都府県に生息
- 拡大傾向:低標高域への進出が顕著
- 現状:市街地近郊での目撃が年々増加
2. 餌場の学習
- 学習能力:イノシシは非常に学習能力が高い動物
- 報酬学習:一度人里で食料を得ると繰り返し出没
- 実験結果:青いコーンにだけ餌があることを学習し、他のコーンを倒さなくなる

農研機構の実験では、イノシシが色を識別して餌の場所を記憶できることが証明されています。この学習能力の高さが被害対策を難しくしています。
3. 餌となるものの放置
- 収穫残渣(柿、栗、ミカンなど)の放置
- 生ごみの不適切な処理
- 耕作放棄地の増加
出没時間と行動パターン
基本的な活動時間
イノシシは本来、人間と同じ昼行性の動物です。しかし非常に臆病な性格のため、人間に姿を見られないよう夜間に行動パターンを変えているだけです。
最も注意すべき時間帯
- 夕方から早朝(日没後~夜明け)が最も活発に活動
- 薄暗い朝・夕の時間帯は被害に遭わないよう十分注意
- 農作物への被害もこの時間帯に集中

行動パターン
イノシシは日中でも活動できますが、人を避けて夜に行動するよう学習しました。そのため人里近くでは夜間の目撃が多くなります。
効果的な安全対策
基本的な対策
遭遇時の対応
イノシシに出会ったら
- 静かに後退:大声を出さず、ゆっくりと離れる
- 背中を向けない:なるべく背中を見せずに後退
- 刺激しない:棒を振り上げたり、物を投げたりしない
- 安全な場所へ:建物や車の中、イノシシが登れない立木の上に避難

緊急時の対応
イノシシは時速45~50kmで走れます。人間が走って逃げることは不可能なので、慌てず冷静に対処してください。
特に危険な状況


イノシシの子供が「うり坊(うりぼう)」と呼ばれるのは、その体の縞模様(しまもよう)が瓜(うり)に似ているからです。
イノシシの赤ちゃんは、生後数ヶ月間、背中に縦の縞模様があり、これが特定の瓜(例えば、縞瓜やギンマクワウリなど)の模様とよく似ています。
この縞模様は、森の中の木漏れ日の中で背景に溶け込み、敵から身を守る保護色としての役割を果たしています。
「うり」に「坊(ぼう)」を付けて、可愛らしい子どもの呼び名としたのが「うり坊」の由来とされています。
この縞模様は、成長して生後4~6ヶ月くらい経つと徐々に薄くなり、大人になる頃には完全に消えてしまいます。
うり坊を見かけたら
- 近くに母イノシシがいる可能性が高い
- 絶対に近づかない、追いかけない
- 母イノシシは子を守るため攻撃的になる
犬を連れている時の注意
- イノシシ出没地域では犬の散歩を避ける
- イノシシは犬を敵と判断し攻撃的になる傾向がある
- 遭遇した場合は、犬を抱きかかえるか、飼い主の体で守りながら静かに後退
- 犬が吠えないようコントロールし、イノシシを刺激しない
- 注意:公式ガイドラインでは緊急時にリードを放すことが推奨されていますが、犬の迷子や二次被害のリスクもあります。状況に応じて判断してください
興奮しているイノシシの見分け方
興奮のサイン
- 牙を鳴らして音を出す
- 毛を逆立てる
- 地面をひっかく
予防対策
餌場を作らない
生ごみの管理
- ネットなどで防ぐ
- ごみ出し時間を守る
- においの発生源を除去
農作物の管理
- 柿や栗などの果実を早期収穫
- 収穫残渣の適切な処理
- 耕作放棄地の解消
侵入防止対策
物理的な防護
- 電気柵の設置
- ワイヤーメッシュ柵の設置
- 柵の定期的な管理と点検
環境整備
- 庭草や樹木の手入れ
- イノシシが身を隠せる場所をなくす
- 竹林の適切な管理
音による威嚇
効果的な音出し
- 農作業時はラジオを携帯
- 河川敷や山間部では鈴を携帯
- 車のクラクションで警告
目撃・被害発生時の対応
緊急連絡先
イノシシを目撃した場合
- 警察(110番):緊急時・人身被害の恐れがある場合
- 市町村役場:目撃情報の報告
- 県の担当部署:被害相談
通報時に伝える情報
- 目撃場所(できるだけ詳しく)
- 目撃時間
- イノシシの頭数
- イノシシの行動(興奮しているか、負傷しているかなど)
- 人や家畜への危険の有無
被害防止計画
市町村の取り組み
多くの市町村が「鳥獣被害防止計画」を策定しています。
- 被害防止計画の作成
- 鳥獣被害対策実施隊の設置
- 捕獲許可の手続き

重要な注意
イノシシは「鳥獣保護管理法」で保護されており、許可を得ずに捕獲することはできません。必ず市町村に相談してください。

まとめ:イノシシとの共存に向けて
イノシシの出没は全国的な課題となっており、農作物被害だけでなく人身被害も増加傾向にあります。重要なのは正確な情報収集と適切な対策の実施です。
行動指針
- 最新の出没情報を定期的にチェック:各都道府県の公式マップを活用
- 地域に応じた適切な対策の実施:侵入防止柵の設置、餌場の除去
- 遭遇時の冷静な対応:刺激せず、静かに後退
- 地域コミュニティでの情報共有:集落ぐるみの対策が効果的
最後に
イノシシは本来臆病な動物ですが、学習能力が高く、一度餌場を覚えると繰り返し出没します。人間との共存を図るためには、お互いの生活圏を尊重し、適切な距離を保つことが重要です。集落全体で対策を講じることで、被害を大幅に減らすことができます。
関連リンク
記事の信頼性について
この記事は農林水産省、環境省、各都道府県の公式発表、専門機関のデータに基づいて作成されています。最新情報は各自治体の公式サイトでご確認ください。
最終更新日:2025年10月14日
次回更新予定:2025年11月下旬