来年は午年です。
馬を主人公にした映画の中でも特に感動的な作品として知られる「戦火の馬」。
スティーヴン・スピルバーグ監督が手がけたこの作品は、第一次世界大戦を舞台に、少年と馬の絆を描いた名作です。
本記事では、「戦火の馬は実話なのか」という疑問から、豪華キャスト、圧巻の馬の演技、そして視聴方法まで、映画と原作の両方を見た筆者が徹底解説します。
「戦火の馬」とは?基本情報と作品の魅力

「戦火の馬」(原題:War Horse)は、2011年12月25日にアメリカで公開、日本では2012年3月2日に公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督による戦争ドラマ映画です。
映画の基本データ
- 監督:スティーヴン・スピルバーグ
- 脚本:リー・ホール、リチャード・カーティス
- 原作:マイケル・モーパーゴ『戦火の馬』(1982年出版)
- 音楽:ジョン・ウィリアムズ
- 撮影:ヤヌス・カミンスキー
- 上映時間:147分
- 公開年:2011年(米国)、2012年(日本)
- 配給:ディズニー
受賞歴と評価
本作はアカデミー賞6部門にノミネートされ、批評家からも高い評価を受けました。
映画レビューサイトRotten Tomatoesでは183件のレビューに基づき77%の高評価を獲得。批評家の総意として「技術的に最高の、堂々と感傷的な、そして大胆にも古風な『戦火の馬』は、スピルバーグのいつもの才能が心を揺さぶる感情的なドラマである」と評されています。
また、Metacriticでは40件の批評を基に**72点という「広く好意的な評価」**を獲得しています。
なぜ今も語り継がれる名作なのか
「戦火の馬」が公開から10年以上経った今も多くの人に愛される理由は、以下の3点にあります。
- 普遍的なテーマ:戦争の悲惨さと人間の優しさ、動物と人間の絆という時代を超えたテーマ
- 圧倒的な映像美:夕日や戦場を駆ける馬の姿を神々しいまでの美しさで捉えた撮影技術
- 感動のストーリー:敵味方を超えた人々との出会いと別れ、そして奇跡の再会
午年にこそ観たい理由
本作は馬を主人公にした映画であり、馬の視点から戦争を描いた稀有な作品です。午年にふさわしい、馬の尊厳と力強さを感じられる映画として、多くの方に観ていただきたい作品です。
「戦火の馬」は実話?原作と映画化の経緯

多くの方が気になる「戦火の馬は実話なのか」という疑問について、詳しく解説します。
原作について
「戦火の馬」の原作は、1982年にイギリスで出版されたマイケル・モーパーゴによる児童文学です。物語は、少年アルバートが共に育った馬のジョーイが第一次世界大戦で軍馬としてフランスに送られ、無事に帰宅するまでを描いています。
※原作本の詳細については、記事後半の「原作本『戦火の馬』について」セクションで詳しく解説しています。
実話ではないが史実に基づく物語
結論から言うと、「戦火の馬」は完全な実話ではありません。しかし、史実に基づいた要素が数多く含まれています。
デヴォンの退役軍人の話が基になっている
原作者モーパーゴが住んでいたイングランド・デヴォンのイズリー(Iddesleigh)という村の第一次世界大戦の退役軍人たちの話が基になっています。
モーパーゴはデヴォンのヨーマン(自作農民)として馬と共に働き、イズリー村のパブで酔っ払っていた第一次世界大戦退役軍人たちから話を聞き、この物語を書き上げました。
第一次世界大戦で100万頭以上の軍馬が徴用された史実
映画の中で描かれる軍馬の存在は史実です。第一次世界大戦中、イギリスだけで100万頭を超える馬が軍馬として徴用されました。
馬は騎兵隊だけでなく、重火器や物資の運搬にも使われ、多くの馬が戦場で命を落としました。本作はそうした史実を背景に、一頭の馬の視点から戦争を描いています。
歴史の証言
「実話ベースではありませんが、当時の退役軍人の実体験と史実がしっかりと反映されています」
舞台版から映画化への道のり
トニー賞5部門受賞の傑作舞台
映画化される前、2007年に舞台化された『ウォー・ホース 〜戦火の馬〜』がロンドンのウエスト・エンドで大成功を収めました。この舞台版はトニー賞5部門を受賞し、タイムズ紙の「10年間の最優秀劇場公演」に選ばれるなど、世界で大きな反響を呼びました。
舞台では実物大のパペット(操り人形)を使って馬を表現し、その革新的な演出が高く評価されました。
スピルバーグが惚れ込んだ理由
2009年、映画プロデューサーのキャスリーン・ケネディとフランク・マーシャル夫妻が、娘たちとともにロンドンで舞台を鑑賞しました。彼らは物語に深く感動し、同僚のスティーヴン・スピルバーグに舞台のことを話しました。
スピルバーグは原作小説を読み、2010年2月1日にロンドンの舞台を観劇。その後、2009年12月16日にドリームワークスが原作の権利を購入したと発表しました。
スピルバーグは次のようにコメントしています。
「マイケル・モーパーゴの小説『戦火の馬』を読んだときから、私にはこれがドリームワークスと作りたかった映画だということがわかった。その心とメッセージが伝える物語は、どの国でも受け容れられるだろう」
あらすじ|少年と馬の絆、戦火を越えた奇跡の再会

ここでは「戦火の馬」のあらすじを、ネタバレを含みながら詳しく解説します。これから映画を観る方は、次のセクションまで読み飛ばすことをおすすめします。
第一幕:イギリス農村での出会い

運命の競売
物語は第一次世界大戦直前のイギリス・デヴォンの貧しい農村から始まります。少年アルバート・ナラコットは、近所の牧場で一頭の馬の出産を目撃します。
産まれた馬は額に白いダイヤ形の模様があり、四肢に白い靴下をはいたような模様がある元気な茶色のサラブレッドでした。
ある日、アルバートの父テッドは農耕馬を買い付けに競売へ出かけます。しかし、彼は農耕には全く適さないサラブレッドを、大地主ライオンズと競り合って30ギニーという大金で落札してしまいます。
アルバートとジョーイの絆
母ローズは烈火の如く怒りますが、アルバートは大喜び。馬に「ジョーイ」と名付け、愛情を注いで調教します。
アルバートはネイティブ・アメリカンが馬を呼ぶ時に使うフクロウの鳴き声のような呼び声をジョーイに覚えさせました。この呼び声が、後に重要な役割を果たします。
荒れた土地を耕す奇跡
ナラコット家は小作料を納めきれない事態となり、テッドは荒れた土地を耕してカブを栽培することを条件に支払いを猶予してもらいます。
村人たちは「サラブレッドが農耕など無理だ」と嘲笑しますが、アルバートとジョーイは大雨で土が軟らかくなったことで、見事に土地を耕すことに成功します。
別れ
しかし、収穫間際に激しい雷雨がカブを全滅させてしまいます。小作料を支払えなくなったテッドは、ジョーイを軍に売ることを決意します。
第一次世界大戦が始まり、ジョーイはイギリス軍のサーベル騎兵部隊に所属するジェームズ・ニコルズ大尉に30ギニーで買い取られます。
アルバートは一緒に志願入隊すると懇願しますが、まだ入隊年齢に達していません。ニコルズ大尉は「戦争が終わったら返しに来る」と約束し、アルバートは父の連隊徽章入り三角旗をジョーイに託します。
感動のポイント
「少年と馬の絆を丁寧に描く前半部分が、後半の感動をより深いものにしています」
第二幕:戦場を駆ける軍馬ジョーイ
騎兵突撃の悲劇
フランスへ送られた騎兵部隊は、ドイツ軍の野営地に騎兵突撃をかけます。ジョーイは指揮官スチュワート少佐の黒馬トップソーンと並ぶ名馬として、部隊の先頭を駆けます。
しかし、ドイツ軍は森の中に機関銃陣地を構築していました。イギリス軍の騎兵たちは機関銃の集中射撃で壊滅します。ニコルズ大尉は戦死し、ジョーイとトップソーンはドイツ軍に捕まります。
この場面は、近代戦争において騎兵が機関銃によって無力化される様子をリアルに描いた、映画史に残る名シーンです。
ドイツ兵の兄弟
ドイツ軍ではギュンターとミヒャエルという若い兄弟が2頭の面倒を見ることになります。上官は役に立たない馬は射殺しろと命じますが、ギュンターは2頭を馬車引きとして使うことで命を救います。
やがて部隊が前線へ向かうことになり、弟ミヒャエルが行軍に加わります。しかし、兄ギュンターは弟を守る約束を果たすため、2頭の馬に乗って弟を連れて脱走します。
翌日、軍の追っ手に見つかった兄弟は、敵前逃亡の罪で銃殺刑に処されます。この悲劇的な場面は、戦争の非情さを強く印象づけます。
第三幕:敵味方を越えた人々との出会い
フランスの少女エミリー
軍に見つからずに残されたジョーイとトップソーンは、ジャム作り農家の少女エミリーに発見されます。祖父は、エミリーが馬に乗らないことを条件に飼育を許します。
エミリーの誕生日に、祖父は馬具をプレゼントします。しかしエミリーはジョーイに跨がるや否や走り出してしまい、その様子を見たドイツ軍部隊に2頭の馬は連れ去られます。
祖父の手には、ジョーイの三角旗だけが残されました。この三角旗が、後に重要な役割を果たします。
榴弾砲を引く過酷な運命
新たにジョーイとトップソーンの面倒を見るドイツ兵フリードリヒは、2頭が名馬であることを理解していました。
膝を痛めたトップソーンが榴弾砲を引かされそうになった時、ジョーイが自ら榴弾砲の前へ飛び出します。まるで友を守るかのような行動でした。
しかし過酷な労働の末、トップソーンは疲労と怪我によって死んでしまいます。悲しむジョーイとフリードリヒでしたが、イギリス軍戦車の襲撃を受けてドイツ軍は退却します。
フリードリヒは大声でジョーイにどこかへ逃げろと叫び、ジョーイは銃弾や砲弾が飛び交う無人地帯を一心不乱に走り続けます。
敵味方が協力した救出
やがてジョーイは、戦場に張り巡らされた有刺鉄線に絡まって動けなくなってしまいます。
その様子を見ていたイギリス兵コリンが白旗を掲げてジョーイの救出に向かうと、ドイツ軍からもペーターという兵士がカッターを持ってやってきました。
敵同士であるコリンとペーターは協力してジョーイを救出します。コイントスでコリンが馬を連れて行くことを決め、お互いと馬の無事を祈りつつそれぞれの陣地へ戻っていきました。
この場面は、戦争の中でも人間性が失われていないことを示す、本作で最も美しいシーンの一つです。
映画の見どころ
「敵味方を超えて馬を救おうとする人々の姿に、戦争の愚かさと人間の優しさが対比されています」
感動のクライマックス
アルバートとの再会
怪我を負ったジョーイを連れ戻したコリンは軍医を探しますが、軍医はジョーイを破傷風で助からないとして射殺を命じます。
そこへ**「戦場の中間地点で見つかった奇跡の馬」の噂を聞きつけたアルバートが、フクロウの呼び声を上げて現れます**。
一時的に視力を失って目に包帯を巻いていたアルバートですが、噂の馬がジョーイであることを確信していました。呼び声を聞いたジョーイはすぐにアルバートの元へ駆け寄ります。
アルバートは軍医にジョーイが自分の馬であることを訴え、その証拠に額の白いダイヤ形の模様と四肢の白い靴下の模様があるはずだと言います。
泥に汚れて模様が見えませんでしたが、泥をぬぐうとアルバートの言う通りの模様が見つかりました。軍医はジョーイにできるだけの治療をすることを約束します。
最後の試練
戦争が終わり、ようやくジョーイを連れて故郷に帰れると安心したアルバートですが、将校の馬以外はフランス現地で競売にかけられると通達されます。
兵士たちはアルバートのために29ポンドをカンパしてくれました。しかし競売が始まると、エミリーの祖父が100ポンド、1000ポンドの大金を出してでも落札すると現れます。
エミリーは既に亡くなっており、祖父は孫のよすがとして馬を買い戻そうとやってきたのです。
しかし別れがたい素振りを見せるジョーイの姿を見て、また祖父が取っておいたジョーイの三角旗がアルバートの父親のものだと知り、エミリーの祖父はジョーイをアルバートに返すことを決意します。
アルバートとジョーイは、ついに故郷への帰路につきます。夕日の中、2人が帰郷する美しいラストシーンは、多くの観客の涙を誘いました。
豪華キャスト紹介|今をときめくスター俳優たちの競演
「戦火の馬」には、後に世界的スターとなる俳優たちが多数出演しています。キャストはヨーロッパ人で固められており、イギリス人、フランス人、ドイツ人の俳優がそれぞれの国の人物を演じています。
主演ジェレミー・アーヴァイン(アルバート役)
ジェレミー・アーヴァインにとって、本作は映画デビュー作でした。スピルバーグは無名の舞台俳優だったアーヴァインを抜擢しました。
撮影はときに苛烈で、特に130頭の馬と数多くのイギリス騎兵たちがドイツの機関銃の隊列に突っ込んでいくシーンについて、アーヴァインは「足元では本物の爆発があり、死体が空中を飛び、スタントマンたちが撃たれていた。あの状況で恐怖を演じるのは難しくなかった」と語っています。
トム・ヒドルストン(ニコルズ大尉役)
「アベンジャーズ」シリーズのロキ役で世界的に有名になる前のトム・ヒドルストンが、イギリス軍のニコルズ大尉を演じています。
ヒドルストンは気品ある騎兵将校を見事に演じ、ジョーイを大切に扱うことを約束する紳士として描かれました。軍服姿のヒドルストンは「今まで見た中で一番素敵」と評する声も多くありました。
ベネディクト・カンバーバッチ(スチュワート少佐役)
「シャーロック」や「ドクター・ストレンジ」で知られるベネディクト・カンバーバッチも、ブレイク前にこの映画に出演しています。
カンバーバッチは騎兵部隊の指揮官ジェイミー・スチュワート少佐を演じ、黒馬トップソーンに乗って突撃するシーンに登場します。
その他の実力派キャスト
本作には他にも多くの実力派俳優が出演しています。
イギリス側の主要キャスト
俳優名 | 役名 | 備考 |
---|---|---|
エミリー・ワトソン | ローズ・ナラコット(母) | アカデミー賞ノミネート経験のある名女優 |
ピーター・マラン | テッド・ナラコット(父) | スコットランド出身の実力派 |
デヴィッド・シューリス | ライオンズ(大地主) | 「ハリー・ポッター」シリーズのルーピン先生役 |
トビー・ケベル | ジョルディの兵士 | 「猿の惑星」シリーズで知られる |
フランス・ドイツ側のキャスト
俳優名 | 役名 | 国籍 |
---|---|---|
ニエル・アレストリュプ | エミリーの祖父 | フランス |
セリーヌ・バケンズ | エミリー | フランス |
ダフィット・クロス | ギュンター | ドイツ |
レオナート・カロヴ | ミヒャエル | ドイツ |
ドイツ兵の兄弟を演じたダフィット・クロスは、「愛を読むひと」にも出演した若手俳優で、成長した姿に多くの観客が感慨を覚えました。
キャスティング
「今では超有名なヒドルストンとカンバーバッチが、当時は若手として軍服姿で登場!豪華すぎるキャストです」
圧巻の馬の演技|11頭のジョーイが魅せた名演

「戦火の馬」の最大の見どころの一つが、主役である馬ジョーイの圧倒的な演技です。多くの観客が「どうやって馬にあんな演技をさせたのか」と驚きの声を上げています。
主役を演じた11頭の馬たち
本物の馬へのこだわり
舞台版では実物大のパペット(操り人形)を使って馬を表現していましたが、映画では本物の馬を用いて撮影されました。
スピルバーグはCGに頼らず、実際の馬の演技にこだわりました。
シーンごとに異なる馬を使用
イギリスでの撮影中、11頭の馬が最も重要な馬のキャラクターであるジョーイを演じました。
これは、馬の年齢、体格、得意な動作によって使い分けるためです。たとえば:
- 子馬のシーン:若い馬
- 激しい走行シーン:スタミナのある馬
- 感情表現のシーン:表情豊かな馬
- 重い荷物を引くシーン:力の強い馬
2011年3月にはカリフォルニアで鹿毛の仔馬を使った追加撮影も行われました。
馬の演技の秘密
「11頭の馬がシーンごとに演じ分けることで、ジョーイというキャラクターに一貫性と深みが生まれました」
驚異の調教と撮影方法
2ヶ月の乗馬訓練
撮影前の2か月間、俳優たちは苛酷な乗馬訓練を受けました。特に主演のジェレミー・アーヴァインは、馬に乗ったことがほとんどなかったため、集中的なトレーニングが必要でした。
この訓練により、俳優たちは馬と本物の絆を築くことができ、それが画面に説得力をもたらしました。
130頭の馬を使った騎兵隊突撃シーン
映画の中で最も印象的なシーンの一つが、イギリス騎兵隊がドイツ軍の機関銃陣地に突撃するシーンです。
このシーンでは130頭の馬と数多くのイギリス騎兵たちが実際に疾走しました。撮影はハンプシャー北部にあるウェリントン公爵の邸宅ストラトフィールド・セイ・ハウスで、130人のエキストラが参加して行われました。
足元では本物の爆発があり、スタントマンたちが撃たれる演技をする中、馬たちは見事に演技をこなしました。
表情豊かな馬の演技の秘密
多くの観客が驚くのが、ジョーイが表情を持ち、意思を持って行動しているように見える演出です。
これはスピルバーグとヤヌス・カミンスキー撮影監督の卓越した技術によるものです:
- 馬の目のクローズアップ:感情を表現
- 耳の動き:周囲への反応を示す
- 体の動き:不安や決意を表現
- 他の馬や人間との距離感:関係性を視覚化
シカゴ・サンタイムズのロジャー・イーバート評論家は「間違いなくスピルバーグが捉えた映像のベストのうちのいくつか」と評しています。
動物福祉への配慮
撮影においては、馬の安全と福祉が最優先されました。
- 専門のアニマルトレーナーが常に立ち会い
- 過度なストレスを与えないよう配慮
- 危険なシーンではスタント用の馬を使用
- 十分な休息時間を確保
馬たちが過酷な労働を強いられる描写は、実際の撮影では細心の注意を払って行われました。
映画の公式コメントでも「すべての馬は安全に配慮され、適切に扱われた」と明記されています。
スピルバーグ監督が描く戦争の真実
「戦火の馬」は、スティーヴン・スピルバーグが初めて第一次世界大戦を描いた作品です。
第一次世界大戦を初めて映画化した理由
スピルバーグと戦争映画
スピルバーグはこれまでに第二次世界大戦にまつわる映画の監督を6作(『1941』、『レイダース/失われたアーク』、『太陽の帝国』、『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』、『シンドラーのリスト』、『プライベート・ライアン』)手がけています。
また、クリント・イーストウッド監督の映画の製作を2作(『父親たちの星条旗』と『硫黄島からの手紙』)、テレビドラマの製作を2作(『バンド・オブ・ブラザーズ』と『ザ・パシフィック』)手がけています。
しかし第一次世界大戦にまつわる仕事はこれが初となりました。
忘れられた戦争
プロデューサーのキャスリーン・ケネディは次のように語っています。
「第一次世界大戦を扱った映画が少なかったことは、私たちがこれに惹かれた理由の一つだと思う。アメリカでは忘れられた戦争だが、スティーヴンと私には非常に大きな影響を及ぼしている」
第一次世界大戦は、近代戦争の始まりであり、機関銃、戦車、化学兵器などの新兵器が大量投入されました。騎兵が無力化され、塹壕戦が主流となった、戦争の性質が大きく変わった時代です。
圧倒的な映像美と戦場シーン
ヤヌス・カミンスキーの撮影技術
撮影監督ヤヌス・カミンスキーは、スピルバーグ作品の常連であり、『シンドラーのリスト』や『プライベート・ライアン』でもその卓越した技術を発揮しました。
本作では、夕日や青空、雪の中、そして戦地を疾走する馬ジョーイを神々しいまでの映像美で捉えています。
特に印象的なのは:
- イギリス農村の美しい田園風景:平和な時代の象徴
- 夕日の中を走る馬のシルエット:希望と悲しみが交錯
- 塹壕と無人地帯:戦争の過酷さをリアルに表現
- 有刺鉄線に絡まる馬:戦争の悲劇を象徴
撮影はデヴォンのダートムーア、ウィルトシャーのカースル・クーム、サリーのボーン・ウッドなど、イギリス各地で行われました。フランスのシーンも含めすべてイギリスで撮影されました。
ジョン・ウィリアムズの音楽
音楽はスピルバーグ作品でおなじみのジョン・ウィリアムズが担当しました。
ウィリアムズの楽曲は、壮大なオーケストラと繊細な旋律で、物語の感動を一層引き立てています。イギリスのフォーク歌手ジョン・タムズが舞台のために書いた楽曲の一つも映画で使われています。
録音は2011年の3月から4月にかけて行われました。
反戦メッセージと希望
PG-13の配慮
プロデューサーのケネディは次のように語っています。
「スティーヴンは『プライベート・ライアン』を持ち込むことには興味がなかったし、私たちはPG-13指定の映画を作りたかった」
そのため、戦場の残虐描写は控えめにされています。これは子どもたちにも戦争の悲惨さと平和の尊さを伝えたいというスピルバーグの意図によるものです。
敵味方を超えた人間性
本作の最も美しいメッセージは、敵味方を超えて人間性が失われていない瞬間を描いていることです。
- ドイツ兵ギュンターがジョーイを救う
- フランスの少女エミリーと祖父が馬を保護する
- イギリス兵とドイツ兵が協力してジョーイを救出
- エミリーの祖父がアルバートにジョーイを返す
戦争という極限状態でも、人間の優しさと尊厳は失われないというメッセージが、観客の心を強く打ちます。
スピルバーグの演出
「戦争の悲惨さを描きながらも、希望と人間性を失わない。これこそスピルバーグ監督の真骨頂です」
原作本『戦火の馬』について|児童文学の名作
映画の感動をより深く味わいたい方には、原作本もおすすめです。
マイケル・モーパーゴの名作児童文学

原作『戦火の馬』(War Horse)は、1982年にイギリスで出版されたマイケル・モーパーゴによる児童文学です。初版はイギリスのKaye & Wardから出版されました。
日本語版について
日本では評論社から日本語翻訳版が出版されています。
- タイトル:『戦火の馬』
- 著者:マイケル・モーパーゴ
- 出版社:評論社
- 対象年齢:小学校高学年〜中学生以上
児童文学として書かれていますが、大人が読んでも深い感動を味わえる作品です。
原作と映画の違い
馬の一人称による語り
原作小説の最大の特徴は、馬ジョーイの一人称(馬の視点)で物語が語られることです。
映画では人間の視点を中心に描かれていますが、原作では馬の目を通して戦争が描かれます。これにより、戦争という人間の営みを客観的に、時には批判的に見つめる視点が生まれています。
より詳細な心理描写
小説ならではの詳細な心理描写により、ジョーイの感情や思考がより深く理解できます。映画では映像で表現された部分が、原作では言葉で丁寧に描かれています。
筆者が原作本を読んだ感想
私は映画を観る前に、原作本を先に読みました。
原作の方は、馬のジョーイ目線で物語が語られているため、読んでいるうちに自分が馬になって、人間を見ている気持ちになりました。戦争という人間が起こした出来事を、巻き込まれた馬の視点から見るという体験は、非常に新鮮で衝撃的でした。
途中からジョーイに深く感情移入してしまい、涙が出てきました。馬は戦争の理由も、敵と味方の区別も理解できません。ただ、出会った人間たちに懸命に応え、戦場を生き抜こうとする姿に、胸が締め付けられる思いでした。
その後、映画を観たとき、映画は人間目線で描かれていました。どちらも素晴らしい作品ですが、私個人としては原作の方が好きです。馬の視点から戦争を見るという独特の体験は、本でしか味わえないと感じました。
筆者からのおすすめ
「映画も素晴らしいですが、ぜひ原作本も読んでみてください。馬になった気持ちで物語を体験できる、唯一無二の読書体験です」
原作本の入手方法
Amazonや楽天ブックスなどのオンライン書店で購入可能です。また、図書館にも所蔵されていることが多いので、まずは図書館で借りて読んでみるのもおすすめです。
電子書籍版も提供されている場合がありますので、お好みの形式で楽しめます。

スピルバーグ映画化による再評価
1982年初版のこの本は、当初それほど多くの翻訳版が出ませんでした。しかし、スピルバーグによる映画化により、2011年終盤の公開に合わせて翻訳権の希望が多数寄せられました。
映画の成功により、原作も世界中で再評価され、多くの言語に翻訳されています。
2011年の特別展示
2011年2月11日から10月30日まで、ロンドンのImperial War Museumで『Once Upon a Wartime – Classic War Stories for Children』が開催され、戦争に関する児童文学5冊のうちの1冊に『戦火の馬』が選ばれました。
このイベントでは物語の歴史的背景や、モーパーゴの直筆原稿などが展示されました。
原作本の魅力
「映画とは違った視点で戦争を見つめることができる、児童文学の傑作です」
視聴方法と配信情報【2025年最新】
「戦火の馬」は現在、複数の動画配信サービスで視聴可能です。以下、最新の配信状況をご紹介します。
主要動画配信サービス
以下のサービスでレンタル・購入が可能です(2025年10月現在)。
- Amazon Prime Video – レンタル・購入
- Disney+ – 見放題配信(時期により変動)
- DMM TV – レンタル(初回550pt付与)
- Lemino – レンタル・購入(初回1ヶ月無料)
- Rakuten TV – レンタル・購入(楽天ポイント利用可)
- Prime Videoで視聴する
- レンタル・購入両方に対応
- 会員でなくても利用可能
レンタル価格目安:HD 300〜500円、SD 200〜400円
DVD/Blu-ray情報
物理メディアでの所有を希望される方には、DVD・Blu-rayもおすすめです。

まとめ|「戦火の馬」を観るべき3つの理由

「戦火の馬」は、午年にふさわしい、馬と人間の絆を描いた不朽の名作です。最後に、本作を観るべき3つの理由をまとめます。
1. スピルバーグ最高峰の感動作
スティーヴン・スピルバーグ監督が初めて第一次世界大戦を描いた本作は、その圧倒的な映像美と感動的なストーリーで、多くの批評家から高い評価を受けました。
- Rotten Tomatoes: 77%の高評価
- Metacritic: 72点
- アカデミー賞6部門ノミネート
ロジャー・イーバート評論家の言葉通り「間違いなくスピルバーグが捉えた映像のベストのうちのいくつか」がこの作品にあります。
2. 豪華キャストの若き日の名演
トム・ヒドルストン(ロキ役)とベネディクト・カンバーバッチ(シャーロック役)が、世界的スターになる前に出演しています。
また、映画初出演のジェレミー・アーヴァインの瑞々しい演技、エミリー・ワトソンら実力派俳優の名演も見どころです。
3. 午年に観たい、馬と人間の絆の物語
11頭の馬が演じた主役ジョーイの圧倒的な演技は、多くの観客を魅了しました。
本作は単なる戦争映画ではなく、敵味方を超えた人間性、動物と人間の絆、戦争の悲惨さと希望を描いた普遍的なテーマを持つ作品です。
午年の2026年に、ぜひ多くの方に観ていただきたい映画です。
最後に
「戦争の悲惨さと希望、動物と人間の絆を描いた永遠の名作。涙なしには観られない感動作です」
参考文献・出典
本記事は以下の信頼できる情報源を参考に作成しました。
- 戦火の馬(映画)- Wikipedia
- 戦火の馬 – 映画情報・レビュー(Filmarks)
- 戦火の馬 – 映画.com
- 戦火の馬 公式サイト(ディズニー)
- War Horse(Rotten Tomatoes)
- 戦火の馬(舞台版)- NTLive
記事作成日:2025年10月12日
最終更新日:2025年10月12日
この記事は、映画「戦火の馬」と原作小説の両方を鑑賞した筆者が、正確な情報に基づいて執筆しました。午年に向けて、多くの方にこの素晴らしい作品を知っていただければ幸いです。
